マイ・ワンダー・スタジオ
年老いた カエデの 木と、若い モミの 木
木曜日, 12月 18, 2014

年老いた カエデの 木と、若い モミの 木

 道の 両側は、雪が 積もって、まるで 白い じゅうたんでも しいたかの ようでした。その一方、道の 真ん中に 積もった 雪は、急ぎ足で 通り過ぎて行く 何百人もの 足で ふみ荒らされ、ぐちゃぐちゃに 茶色く なっていました。今日は、クリスマスイブ。人々は 両手に 荷物を いっぱい かかえて、急ぎ足で 通りを 行き交っていました。人ごみを かき分け かき分け、声を かけ合って 笑いながら 通り過ぎていきます。

 道の 上の 方では、昔から 立っている 年老いた カエデの 木が、空に 向かって 枝を のばしていました。強い 風が ふいてきて 枝々を わしづかみに し、地面に 向かって おし曲げると、カエデは ヒューンと 音を 立てて、枝を しならせました。カエデの 木の 下の 方からは、せせら笑いが 聞こえてきます。見栄えの いい モミの 木が、気取って おい茂った 枝々を のばすと、粉雪が キラキラと 輝きながら、地面に 落ちていきました。

 「おじいさん。ぼくは 思うんだけれど、あなたも、もうちょっと がんばって、堂々と 立っていてくださいよ。全く、葉っぱが こんなに たくさん 落ちてしまって、みっともない。これ以上 動き回ったら、丸はだかに なりますよ。」 モミの 木が、えらそうに かん高い 声で 言いました。

 「そうじゃね。みんな、キリストの たん生を 祝って、最高に 美しく 着かざっておるからのう。ここから 見渡すと、どの 街角も、デコレーションで キラキラ 輝いておる。昨日などは 人間が 来て、ここの 通りに 立っている すべての 木に、明るくて きれいな ライトを かざり付けていったしのう。もちろん、わしだけは 別じゃがね。」 そう 言って、年老いた カエデの 木は、ふっと ため息を つきました。すると、溶けた 雪の 結晶が 一すじの なみだのように、こぶだらけの みきを 伝い落ちました。

 「全くですよ! しかも、あなたは 自分も ライトを かざってもらえると 思ったのですか? そんなことを したら、ますます みっともなく なるじゃ ないですか。」 モミの 木が うすら笑いを 浮かべながら 言いました。

 「お前さんの 言う 通りかも 知れん。クリスマスが 終わるまで、どこかに かくれて いられたらなあ。こんなに きれいな 街の 中で、わしだけが みっともないのに、まだ ここに 立っておるなんてな。人間が 来て、わしを 切りたおしてくれれば いいのだが。」 カエデの 木は 悲しそうに 言いました。

 「まぁ、ぼくも 悪気は ないんですよ。だけど、確かに あなたは みっともないです。いっそのこと、人間が 来て、切りたおしてくれたほうが いいのかも しれませんね。」

 そう 言うと、モミの 木は 美しい 枝々を 今一度 のばしました。「せいぜい、最後の 3枚の 葉を 落とさないように するんですね。少なくとも、丸はだかには ならないようにね。」

 「葉を 落とさんように、一生けん命 やってるつもりなんだが。毎年 秋に なると、わしは 自分に 言い聞かせるんじゃ。『今年こそは、何が 何でも、葉を 1枚も 落とさんぞ。』とな。だが、わしよりも 葉を 必要と している だれかが、いつも 通りがかるんじゃ。」 年老いた カエデの 木は、またもや ため息を つきました。

 「あの うすぎたない 新聞少年には、そんなに たくさん あげるなって 言ったじゃ ないですか。それなのに、あなたと きたら、わざわざ 枝を 低くして、あの 子が 葉を 取りやすいように してあげるなんて。ぼくは ちゃんと 注意しましたからね。」と、モミの 木が 言いました。

 「ああ、そうだな。だが、あの 子は 喜んでいた。体の 不自由な お母さんのために 持って帰りたいと 言っていたなぁ。」と、年老いた カエデの 木が 答えました。

 「みんな、もっともな 理由が あるんですよ。例えば、あの 女の子だって、パーティーで かざるために、色づいた 葉を 使いたがっていたでしょ。葉っぱは 全部、あなたの ものなのにねぇ!」と、モミの 木が 言いました。

 「あの 子は、ずいぶん たくさん 取って帰ったねぇ!」 年老いた カエデの 木は、ちょっと ほほえみました。

 その時です。冷たい 風が 通りを ふきぬけると、茶色い 小鳥が 年老いた カエデの 木の 根元に 落ちてきました。寒さに ふるえて、羽を 持ち上げることさえ できません。年老いた カエデの 木は あわれに 思って、すぐさま 最後の 3枚の 葉を 放ちました。金色に 色づいた 葉は ゆらゆらと 空中を まいながら、ふるえている 小鳥の 上に そっと 落ちました。小鳥は 落ち葉の 下で 暖まって、じっと していました。

 「何という ことだ! ついに 最後の 葉っぱまで やっちまうとは! クリスマスの 朝には、あなたの おかげで、この 通りは 街中で 一番 ぶざまな 光景に なるんですよ!」 モミの 木が、金切り声を あげました。

 カエデの 木は、何も 言いませんでした。ただ、雪が 小鳥の 上に 落ちないように、枝を のばして、できるだけの 雪を かき集めたのでした。若い モミの 木は おこって、そっぽを 向いてしまいました。

 ふと その時、モミの 木は、道から ちょっと はなれた 所に、若い 絵かきが じっと すわっているのに 気付きました。彼は キャンバスの 上で、熱心に 筆を 動かしています。着ている 服は 古く ぼろぼろで、表情も 悲しそうです。ここ 何ヶ月間もの 間、絵が 1枚も 売れなかったので、プレゼントが 何も ない クリスマスの 朝を むかえる 家族の ことを 考えていたのです。

 けれども 小さな モミの 木は、そんな ことは 知りません。年老いた カエデの 木の 方を 振り向いて、荒々しく 言い放ちました。「少なくとも、その はだかの 枝だけは、できるだけ ぼくから はなしておいてくださいね。人間が 今、わたしの 絵を かいているんです。背景に あなたの ぶざまな 姿が 入っては、絵が 台無しですからね。」

 「分かったよ。」 そう 言うと、カエデの 木は できるだけ、枝を 高く 持ち上げました。絵かきが イーゼルを 片付けて 帰るころには、辺りは 暗くなっていました。小さな モミの 木は、気取ったり ポーズしたり するので つかれて、不きげんでした。

 モミの 木が クリスマスの 朝 おそく 目を 覚まし、自分の きれいな 枝に 積もった 雪を 得意気に はらい落としていると、年老いた カエデの 木の 周りに 大きな 人だかりが できていたので、びっくりしてしまいました。人々は 後ろに 下がって 木の 上の 方を 見つめ、口々に うわぁ~と、おどろきの 声を あげていました。道を 急いで 通り過ぎようと していた 人たちでさえ、立ち止まって、カエデの 木を 見上げているのです。

 「一体、何だろう?」 もしかしたら 夜の 間に カエデの 木の てっぺんでも 折れたのだろうかと 思って、うぬぼれ屋の モミの 木も、上の 方を 見上げました。

 その時です。この 光景に 見とれていた 新聞少年の 手から、新聞が 風で あおられて、若い モミの 木の 所まで 飛んできました。それを 見た モミの 木は、がく然と しました。新聞の 第一面には、あの 絵かきが 自分の かいた 絵を 持っている 写真が 出ていました。その 絵に えがかれていた ものとは、葉の ない 枝に 積もった 雪で 真っ白に なった、あの 大きな カエデの 木だったのです。カエデの 木は、雪で ずっしりと 重くなった 枝を、空に 向かって 真っすぐ のばしていました。根元には、3枚の 金色の 落ち葉の 下で、茶色い 小鳥が 横たわっています。絵の 下の 部分には、こんな 言葉が そえられていました。「最も 美しい ものとは、持てる すべてを 与えた もので ある。」

 若い モミの 木は、つつましい 年老いた カエデの 木の 偉大なる 美しさの 下で、静かに 頭を たれたのでした。

 「最も 美しい ものとは、持てる すべてを 与えた もので ある。」

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