マイ・ワンダー・スタジオ
無数字村-数の存在しない世界
金曜日, 5月 6, 2022

無数字村-数の存在しない世界

第1章

「算数の宿題なんて、いやだなあ!」 いらいらした様子で、フランクは算数の教科書をバサッと閉じました。土曜日の今日は、今朝から勉強がはかどっていません。あと数分で昼食という時、フランクはドサッとベッドに転がって、みじめな気分にひたっていました。

そして、フランクはうとうとし始めました・・・

「そうだ、あいつだ!」 後ろで、みにくい声がうなりました。

はっと気が付くと、フランクは、今までに見たこともない、変てこな服に身を包んだ、変わった出で立ちの男3人に囲まれていました。その服はまるで、寸法のことなど全く考えず、いい加減に切っただけの布をいっしょくたに束ねたかのようでした。

「一体何なの? おじさん達は、だれ?」と、フランクがたずねました。

ところが、男達は返事をしないどころか、フランクに荒々しくつかみかかり、両手をなわでしばり上げようとしました。

「放してよ!」 フランクは抵抗して必死にもがきましたが、とてもかないません。すぐに、両手は後ろでしばり付けられてしまいました。それも、今まで見たこともない、バカバカしいほど長いなわで。

「ここはどこなの!? どういうことなの?」 フランクは自分をつかまえた人達にしつこく聞きました。

「お前を、無数字村に連れて行くんだ。お前にはこらしめが必要だからな。よくもまぁ、そんなにたくさんの数を身につけて我々の土地に来たもんだ!」

お前にはこらしめが必要なんだ!

「数だって?」 フランクは聞き返しましたが、返事はありません。しばらくの間は、あきらめて付いて行くしかないと、フランクは思いました。彼は後ろから荒々しく突き押されながら、小さな村のような場所に向かって、ほこりっぽい道を進んでいきました。

(何て変てこりんな場所なんだ!)と、フランクは思いました。道自体、何の理由もなく幅が広くなったりせまくなったりしていて、道を作った人は、全く正気ではなかったかのようです。必要もないのに道がくねくね曲がっていて、目的地に行くのに必要な実際の距離の2倍ほどもあるのです。

村に近くなると、道のわきには、貧弱な形をした小さな標識が、ものすごく高い柱のてっぺん近くにかかっています。あまりにも高いので、ほとんど字が読めないくらいでした。

「無数字村」と、標識には書かれていました。「人口:かなりたくさん。注意! 我々の町の近辺での数の使用現行犯は法律により、厳重に処罰される。」

「何てバカバカしいんだ!」 思わず、フランクは口走りました。

「バカバカしいかどうかは、裁判官に裁かれたら分かるさ。」と、3人の中で最も背の低い男が言い返しました。「我々には、お前を牢屋に入れるのに十分な証拠があるんだぞ!」

第2章

ふとフランクは、3人の男達が靴をはいていないことに気付きました。ズボンも、いい加減な長さに切ったなわで、ずり落ちないようにくくられているだけです。それで、あることがはっきりしてきました。つまり、彼らは生活のあらゆる面で、数を使わないようにしているようだということです。

フランクの顔に、いたずらっぽい表情が浮かびました。もしフランクが、町に着くまでの歩数を、声を出して数え始めたら、一体どうなるだろう? けれども、彼を見張っている男達の気性の荒々しさを考えて、それはやめることにしました。

無数字村は、全く数字の存在しない場所でした。巻尺さえ使われたことがないようです。きちんと測られたものは何一つなく、まっすぐなものもありません。それで、屋根は今にもくずれ落ちそうです。フランクは、これ以上傾いた家並みなど、想像さえできませんでした。壁も曲がっているし、ドアも全く合っていません。窓も、ちぐはぐで・・・と言うより、そもそも窓がほとんどないのです。均一なものや調和のとれたものが、一切ないようでした。

フランクは押されていって、中央市場を通りがかりましたが、それは今まで見たこともないような気違いじみたものでした。物には値段も付いてないし、お金のやり取りもありません。だれも、何も数えないのです。ただ、変てこな物を気まぐれに交換しているだけです。判断の基準となるようなものも、全然ありません。フランクが普段市場で見かけるような陳列棚などもありません。この市場は完全なる混乱でした。

市場を過ぎると、今度は学校らしきものが見えました。平らな面に「学校」となぐり書きされていたからです。生徒達には、決まった教科書もなく、本のサイズも形もバラバラでした。本にはもちろん、ページ数も記されていません。無数字村では、時計やカレンダーなど、時間を計るためのものも、完全に禁止されているようでした。学校は閑散としていて、ほとんどの生徒は、一体いつ授業があるのかさえ分からず、実際に登校した生徒も、ほとんど何も学んでいませんでした。

ついにフランクと男達は、ものすごく見苦しいあばら家に着きました。そこでは何人かの人達が、建物の外にすわって待っていました。フランクも、「そこにすわって待て!」と命じられました。

「待つって、何をですか?」と、フランクはたずねました。

「裁判官に決まっておる!」

「だけど、何時に来るんですか?」とフランクが質問すると、顔をぴしゃりとたたかれました。

「お前の数のたわ言や無礼はもうたくさんだ。これ以上『時間についての話』をすると、許さんぞ。」

第3章

困惑し、しょげ返ったフランクは、ベンチで待っていた老人のとなりにすわりました。そして、やっとの思いで勇気をふりしぼって、老人に話しかけました。「裁判官はいつ来るんですか?」

「いつだって?」 老人は落ち着かない様子で、いぶかしげに言いました。「ぼうや、時間について話すなんぞ、おそろしいことじゃ! そんなことは、さっさと忘れなさい。そうでないと、裁判官の前では決して助からんぞ。」

フランクは長いこと、じっとすわっていましたが、ついにがまんできなくなり、あえてまた質問しました。「裁判官は今日来るんですか?」

「いつ来るかは、だれも知らん。『いつ』というのは時間の表現で、ここでは使うのを許されておらんのじゃ。」 小声で老人はささやきました。

午後の時間がゆっくりと過ぎていきました。急に、フランクの回りにいた人達がみんな、立ち上がりました。裁判官がやって来たのです。最高におかしな出で立ちの老人が、尋問室へ向かってきます。普段は決して姿を現さない、この明らかに重要人物と見える老人が、フランクが村に現れたことを耳にして、やって来たのです。

「反抗者よ、立て!」 男の1人がフランクに向かってどなりました。「今からお前の判決が出るんだ!」 フランクは荒々しくドア-それをドアと呼べるならの話ですが-の方に突き押されました。フランクは他の「数の」犯罪者たちと共に、よろめきながら法廷に入っていきました。

最初に尋問されたのはフランクではありませんでした。他の人達が裁判官の前で尋問され、判決を言い渡される様子を、フランクはショックを受けながら見ていました。フランクのとなりにすわっていた老人は、寝言で数を数えているのを聞かれた罪で、おしりをいやというほどたたかれました。

お前は、数の教義で住民を堕落させようとした罪で、訴えられておる!

最後に、フランクが尋問される番になりました。彼の罪状は、最高に重々しい調子で読まれました。それは、数の異端教義で住民を堕落させようとしたというもので、「無期懲役」に値する重罪でした! もちろん、懲役期間を決めることさえ、完全なる違反です。それに、時計やカレンダーもないので、町の住民はだれも、時間はおろか、今が何月何日かさえ知らないようです。

フランクは、自分が算数や数と関わることがどんなに嫌いかについて、熱弁をふるって立派に自己弁護しましたが、全く無駄でした。検察官長がフランクに、サイズが印刷された自分のシャツのラベルを裁判官に見せるように強いた時点で、彼の答弁はすべて寸断されてしまいました。フランクには有罪判決が言い渡されました。

第4章

フランクはふるえおののきながら、判決が下されるのを聞きました。おそれていた通りでした。無期懲役です! フランクが連れて行かれようとした時、裁判官が看守らに向かって叫びました。「それらのいまわしい仕立ての服と靴を、直ちに処分せよ。それらは法廷への不面目じゃ!」

不幸にも、フランクは、またもや襲われてしまいました! 今度は、彼の服を引き裂こうと、暴行者たちがつめ寄ってきたのです。このいまわしい犯罪人に罰を下すのに手を貸そうと決意している、荒れくるった見物人の群れによって、彼のシャツはあっという間にボロボロに引き裂かれてしまいした。そして、ズボンが引き裂かれそうになると、フランクは必死に抵抗しました。・・・

*

「フランク! フランク! 起きて! お昼の時間よ。」

ぼうっとしながら、まだ手足をバタバタしているフランクは、目を覚ますと、自分が自分の部屋にいることに気付きました。

「もどって来たぞ! 全部、悪い夢だったんだ!」 喜びのあまり、フランクは声を上げました。

そうです、フランクはもどっていました! 数の存在する世界、月日や時間、サイズや重さや高さや”かさ”のある世界、レシピや計量のある世界に、もどっていました。正確な図形や、秩序のある建物、算数が学校の教科として教えられている世界へ、もどってきたのです。

フランクは、自分が放り投げた算数の教科書を拾い上げました。「分かったよ。つまり、結局のところ、算数はそれほど悪くないってことだね!」

終わり
文:ポール・ウィリアムズ 絵:ディディエ・マーティン デザイン:ロイ・エバンス
出版:マイ・ワンダー・スタジオ Copyright © 2022年、ファミリーインターナショナル
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タグ: 子供のための物語, 学習能力