真冬のある夜に
重々しいロンドンのスモッグのはるか彼方の上空では、凍てつくような北風が湿気をたっぷり含んだ雲を打ちたたき、かの美しい結晶をはたき出していた。ぼくたちが「雪」と呼んでいるものだ。
北風が辺り一面に雪を降らせる中、丸々と太った人物を乗せたそりがやってきた。そりに乗った人物は、甲高い声でとめどもなく12頭のトナカイを追い立てている。トナカイたちは、あたかも冬のラップランドの平原を主人を乗せたそりを引いて走るかのように、大空の雲の間をかけぬけていた。
「ホー、ホー、ホー! ゲホン、ゲホン!」 彼の仲間であり、しもべである妖精のぼくは、息がしやすいように背中をたたいてやった。
「ああ、それでいい。助かるよ、ラルフ。」 ゼーゼーいいながら、彼は言った。銀河系妖精訓練学校でフィンランド語を専攻しておいてよかったよ。クロースの言葉はいつ聞いても分かりづらいが、彼の英語よりは、フィンランド語のほうがまだ分かりやすいからね。
「こんな地上の体をいつも使わんですむことを、神に感謝するわい!」 息切れしながら、クロースはうらやましそうにぼくを見た。「ラルフ、君はスマートでしなやかで、全く妖精そのものだ! 君の衣装は、まるで第2の皮膚のようじゃないか。君はそれについて、どう思うかい?」
ぼくは答えた。「用途に合っていてよかったです。『衣装』が小さくて動きやすいのは気に入りました。」
「用途じゃと?! では、わしの格好はどうなんじゃ? まるで、秋に食いだめしたマーモットが、赤インクの中に落ちたみたいではないか! わしゃ、永久に何重もの救命具にくくりつけられたような気分じゃ! ラルフよ、人間はこんなにも自分をふくらますことができるのか?」
「残念ながら、さようでございます。けれど、今わたしたちが向かっているのはそこなのでは?」 ぼくはそりから身を乗り出して、下界に広がる地球の表面を見下ろした。眼下の町は、うっすらとしたもやの中に星がぎゅう詰めになった大空のように見えた。
「ロンドンでございます。」 ぼくは、うやうやしく注意を促した。クロースはまだ、クリスマスに身に着けることになった、不格好でぶよぶよの「衣装」について、ブツブツつぶやいていたからだ。
「ああ、そうだったな。」 目前の仕事を思い出し、彼は大きな巻物を取り出すと、しかめっ面で目を細くして紙をにらみつけた。結局、もごもご言いながら、鼻にのっかった眼鏡をはずした。「人間が、読むためにこんな物を使うとはな!」
彼の白くて太いまゆ毛がゆるんだ。巻物を入念に調べると、クロースは言った。「あったぞ! エルシー・ホワイト、カンカーソア通り、5番地、2階。赤ちゃんの子守りをし、庭の小道の雪かきを毎日2回するなど、父母の手伝いをよくする良い子。父親のためにもっと良いシャツを縫ってあげられるよう、クリスマスにはミシンがお望み・・・と。おやまあ! めずらしいもんだ! なあ、ラルフ?」
「誠に。 ガトリング銃だの、短刀だのがほしいなんてリクエストがどっさりある中で、これは訳がちがいますね。」
「全くじゃ。・・・さあ、着いたぞ。」
ぼくたちは、とあるアパート全体をおおっている、くすんだ灰色の細長い屋根の上に降り立った。トナカイを静まらせて樋管につないだが、眼下のうすよごれた通りでは、馬車や馬のひずめの音などは聞こえなかった。クロースは煙突の大きさを見て、顔を曇らせている。
「ちょっと手を貸しておくれ、ラルフ。」 ぼくは、クロースが煙突のふちにたどり着くのを手伝った。
「どうか、人と話す時は、英語で話すことをお忘れなきよう。ここの人たちは、一言もフィンランド語が分かりませんから。」 クロースはうなずくと、うなったり、息を切らしたりしながら、煙突を下り始めた。ぼくは、静かに後に続いた。
「うわあー!」 突然暖炉の中に現れたぼくたちを見て、住人がさけんだ。ぼくたちに向けられている、さびた鉄の火かき棒に注意しながら、ぼくはクロースが立ち上がるのを手伝った。
「一歩でも近付くと、警官を呼ぶぞ!」 ふるえる声で、住人が言った。
クロースはフィンランド語で、自分らは友達だと大声で言ったが、相手は鉄の火かき棒を引っ込めてはくれず、ぼくの仲間の太った腹に突き付けては後ろへ飛び下がったりをし始めた。
「英語で話すんですよ!」 ぼくは大声で言った。火かき棒から安全な距離だけはなれると、クロースは声高に話しかけた。
「今度は何でしょうか? 自分がやせているので、わしの脂肪がうらやましいんですかい? できることなら全部でも差し上げたいものですが、床に流してしまっては、もったいないですよ。」
このころまでには、目が暗い部屋に慣れてきて、ぼくたちが押し入ってきた家の住人がどんな人なのかが見えた。その人は中年を過ぎ、もし一言で言い表すなら、「やせ」だ。手も腕も足も顔も、すべて骨と皮だけのようで、表情はまるで古い墓石みたいに陰気くさい。人に接するのに慣れていないらしく、そこへもってクロースがおどろくほど太っちょなので、さらに妖精のぼくが加わるなら、一部屋に現れるにはあまりにもおかしなことになってしまう。それでぼくは透明化し、説明するのは、クロースのたくみな腕前に任せた。クロースには、知り合ってほんのわずかな時間で人を魅了してしまう人柄があるのだ。
さて、クロースの方はと言うと、住人をなだめようと努めているところだ。「おどろかせてしまって、誠に申し訳ありません。わたしはサンタクロースです。このたびは、良き知らせと、クリスマスの喜びをお伝えするために参りました。」
「サンタクロースだって? 本物のサンタクロースかい? 何を、ばかばかしい!」 住人はあざ笑った。
「ばかばかしいですと? いえいえ、本当です。わたしは、フィンランドから来ました。ところで、わたしはあなたの暖炉の火をめちゃくちゃにしてしまいました。部屋が凍てつくようですね。すぐに何とかいたしましょう。」 そう言うと、クロースは手をたたいた。すると、暖炉に炎が燃え上がり、殺風景な部屋が明るくなった。
部屋にあるのは、細長い寝台と、使い古された木の洗面台、それに片隅にある木の椅子と大ざっぱに作られたテーブルだけだった。一体どれほど貧しい生活をしてきたのだろうか。明らかに、クロースも同じことを考えていた。
「これはいけませんね。」 クロースは舌打ちして言った。「この椅子はまるで、骸骨のようです!」
男は冷ややかに言った。「わしの居間にケチつける気なら、さっさと出て行ってくだされ。そうすれば、わしの家具のことで気を悪くすることもなくなるし、わしも、おまえさんの姿を見て気を悪くしなくて済みますからな。」
クロースは非常に気を害されたようだった。一言も言えずにいると、男はしゃべり続けた。
「何て炎なんだ。丸1週間分の薪が無駄な熱を生むのに使い果たされてしまったではないか。この勢いでいくと、氷河が溶け始めても驚かないくらいだ。」
「でも、クリスマスくらいは・・・。」
「何を、ばかばかしい! メリークリスマスなど、とっととおさらばだ!」
「クリスマスは、家の中にも、外にも、あらゆる所に来ていますよ! ホー、ホー、ホー、ゲホゲホ・・・」 クロースは陽気に言いながら、終いには息がつまってしまった。ぼくは背中をたたいてやった。
「ありがとう、ラルフ。助かるわい。」
骨と皮ばかりの男が部屋に立っているのをちらっと見て、ぼくはすべてを察した。
ぼくは男にたずねた。「ぼくはあなたを知っていますよね? 話し方に聞き覚えがあります。あなたはもしかしたら、あのスクルージさんではないですか?」
ぼくの声が聞こえるようにするためには、また姿を現さなくてはならなかった。だが、男はこれがすべて、じきに目覚める突飛な夢だと思っているようだ。この時点では、クリスマスの霊がすべて姿を現したとしても、彼を驚かすことはできまい。
「そうさ。わしは、ギャレス・スクルージだ。」 男は、とがったあごを上げて言った。
「やっぱり!」 思わず、ぼくは声をあげた。クリスマスのように神聖な日を汚すようなことを言われて激怒したことを思い出したのだ。「そうだと思いましたよ! ケチな匂いは、1マイル先からでも匂ってきますからね。」 ぼくはとなりの赤い大きな人物の方を向いて言った。「ああ、クロース。ぼく達、エベネーザさんの父側の御従兄弟の煙突を下りてきてしまったようです。やっぱり、ケチは家系みたいですね。」
クロースが言った。「おや、まあまあ。そりゃ大変だ。そんなとこに足を踏み入れてしまったのか。」
「わしをダシにして面白がるのはやめとくれ!」 スクルージが甲高い声で言った。
クロースは、スクルージの言ったことが聞こえなかったかのように話し続けた。「考えてもみてごらん。暖炉で燃え盛る火も楽しめないほどケチなのではな。・・・」
「勝手に人の家にのこのこやって来て、侮辱する気か!」 スクルージは、老人にしてはあまりにもおそろしい顔をしてどなった。
「消え失せろ、赤い巨大怪物もどきめ! それに、おまえも・・・耳のとがったお化けめ!」 スクルージは、まるで呪文でも唱えるかのようにどなって、腕を振り回した。
それで、ぼくたちは腹が煮えくり返るほど頭にきた。
すると、クロースが大声をとどろかせた。「そうなのかい?! では、おまえさんがクリスマス精神を学ぶまでは、帰らんからな!」
実を言うと、クロースをおこらせると、以前ぼくも知り合ったことがある、さまよった幽霊のようにおそろしく、そしてこわい。スクルージはクロースを前に、ひるんでしまった。するとクロースはいかりをしずめ、やさしい口調で言った。「まあまあ、わしは危害を加えるつもりはない。だが、クリスマス精神は学んだほうがよろしい。」
クロースはスクルージの腕をつかみ、壁を通りぬけて、雪の降る外へ連れて行った。
「クロース、あわてないでくださいね。あまり過激なことは・・・。」
クロースは、ただ全身をふるわせてゆかいそうに笑った。まるで、体全体がゼリーでできているかのようだ。そして、クロースがスクルージの腕をつかむと、スクルージまでいっしょにゆさぶられた。ただスクルージの場合は、吹きさらしにある今にもこわれそうな柵がゆれているようだった。
クロースがたずねた。「クリスマスは、喜ぶべきではないのかね? 最高の贈り物が人間に授けられたのだぞ。下の人々を見てみよ、スクルージ。」 スクルージは眼下を見てぎょっとした。通りをせわしく行き来している人たちの多くが、周りに輝きを解き放つ大きな金色の光を内に秘めていたからだ。この輝きの不思議な美しさは、かたくななスクルージの心にさえ触れた。
「この光は、一体何なんだ?」 スクルージがたずねた。
「これは、永遠の命と愛の光じゃ。これこそ、クリスマスの贈り物じゃ。ほれ、この乞食も、この少女も持っておるが、その金持ちは持っておらん。なぜか? それは、贈り物だからじゃ。なんだ、おまえさんだって、持っておるのだぞ。」
「わしはそんな物、もらっておらん!」とスクルージ。
クロースは言った。「ああ、人間とは、忘れっぽいものだのう。来なされ。見せて進ぜよう。」
ぼくたちは通りに降りて行ったが、店のショーウィンドウや歩道にあるサンタクロースの絵や模型を見るたびに、クロースは激しい非難の言葉を発していた。
そしてついにぼくたちは、窓に明かりのともった、ある小さな教会に着いた。中に入って、キリスト誕生の場面を囲んでいる少年少女のために行われているクリスマスの礼拝に耳をかたむけた。
「見てみよ! これでも、贈り物をもらっていないと言うか? そこにいるのは、だれだね?」 クロースは、向こうのすみの方で頭をたれて祈っている、非常にやせた少年を指さして言った。
ぼくは思わずほほえんだ。「スクルージだね。全くもって、神に対しても人に対しても、平和そのものだ。」
「ほら、見てみよ。」とクロース。
祈りが終わると、部屋は一人一人の子どもたちから発散される光で満ちた。それはまるで、花が開き、部屋のすみずみにまでその輝きを解き放つようだった。
スクルージはそれを見て一瞬の間、表情が和らいだように見えたが・・・ほんの一瞬だけだった。スクルージは身ぶるいをすると、弱々しい声で「ばかばかしい!」と言った。そして、自分から関心をそらすかのように、クロースの方に向き直って言った。「これは一体どういうことなんだ? この教会は、何年も前に取りこわされたぞ。そのくらい、知っておる!」
「その通りです。」と、ぼくは答えた(銀河系妖精訓練学校の1年目に、スクルージ家についてのリサーチをしていたので)。「知っているはずですとも。10年前、あなたがここにアパートを建てるために、教会は取りこわされたのですから。あんな悲惨なあばら家は、今までに見たこともありませんよ。」
スクルージは居心地悪そうだったが、つんとして言った。「そんなの、お前の知ったことか。」
ぼくが言い返しそうになると、クロースが止めた。「静かに、ラルフ。」 クロースがそう言う時は、ぼくはいつも従うことにしている。
子どもたちが立ち上がり、クリスマスツリーの周りに集まって、プレゼントをもらい始めた。その後は、列を成して教会を出、家へ帰って行った。光は今でも一人一人の周りで輝き、それが白い雪とみすぼらしい路地を明るく照らしている。
最後の子どもが教会を出ると、クロースはまたもやスクルージの腕をつかんだ。「来なされ。クリスマスの喜びを、もっと見せて進ぜよう。」 それからぼくたちは空に舞い上がり、屋根や通りをこえて、ちょうど朝の8時の鐘を鳴らしているビッグベンのてっぺんに来た。するとそこには、やせた老人が立っていた。茶色と灰色の服を着て、ぼくたちがそばに舞い降りてくると、こちらを見上げてあいさつした。2人のあいさつは、何とも風変わりだった。もし新聞雑誌記者が聞いていたら、ちょっとした名演説になったことだろう。
ビッグベンの頂上で、太った老人とやせ細った老人によって交わされたあいさつは、こうだ。
「やあ、クロース。」
「やあ、こちらこそ、クロース。」
「何とも良いお日和で。」
「ごもっとも。最高の日じゃな。」
スクルージとぼくはそばをただよっていたが、ぼくはやせた老人を指さしながらスクルージの方にかがんで言った。「あちらはクロースさんです。」 スクルージはけげんな顔をした。「本物ですよ。元々の、最初のクロースです。今までに体重が70キロをこえたことはないでしょうけどね。」 二人のクロースの会話は続いた。
「今日は、なかなか貫禄がありますな。」
「太りましたでしょう。」
「ふむ、人間が広告やら何やらでサンタクロースのイメージをどんどんふくらませておるというのは、残念なことじゃのう。あと2、3年もすれば、えんとつの中に入ろうなんてことは論外になるやもしれませんな。」
「やあ、ラルフ。そちらの方は?」
「クリスマスの喜びを必要としている人です。」 ぼくは答えた。
やせた方のクロースが言った。「そのようですな。わしにできることなら、何なりと。」
太ったクロースははずかしそうな様子で、巻物を掲げた。
「実を言うと、クリスマスの喜びのリストをどこかで置きちがえてしまったようで。ここにあるのは、ショッピングモールのサンタクロースの欲しい物リストでな。吹き鉄砲、派手な人形、怪物の模型などなど。唯一のまともなリクエストと言ったら、両親のために服を縫ってあげたいのでミシンがほしいという少女のものだけじゃ。」
すると、やせたクロースが言った。「では、わしのリストを持って行きなされ。たとえ何があろうと、クリスマスの喜びは、広めねばならぬからな。ミシンを欲しがっている少女も、そこに付け加えておいてくだされ。」
何度も礼を言うと、太ったクロースはやせたクロースから新しいリストを受け取って、ぼくたちは超高速でスクルージのアパートへ向かった。
屋根の上に降り立つと、ぼくはトナカイをそりにつなげた。クロースがスクルージをぼくたちの間に押し込むと、ぼくは陽気な合図の口笛を吹いた。
「一つ目。煙突掃除の少年に、クマのぬいぐるみじゃ!」 クロースがそうさけぶと、ぼくたちは一瞬の間に小さなおもちゃ屋に来ていた。クロースはスクルージの腕をつかむと、宙に浮いたままショーウィンドウをすりぬけて、明るい店の中へ入って行った。
クロースはずらりと並んだおもちゃの陳列棚をどんどん通り過ぎ、人形や動物のぬいぐるみがひしめき合っている棚の前でピタッと止まった。小さなクマを手に取ると、自分のポケットから細かな金の粉を出し、それをクマの上にかけた。そしてほほえみながら、クマを棚にもどした。
「さてと。ここからが、マジックの始まりじゃ。」 クロースはスクルージに言った。
店長が店を閉め始めると、スクルージは何が起こるのかと、興味津々に見入った。店長は床をはき、シャッターを閉め、店の中を今一度念入りに調べると、例のクマがのっている棚の前で立ち止まった。物思いにふけるようにあごをこすっていると、クマが輝き始め、店長に向かって小さな光のきらめきを放った。店長はいよいよ速くあごをこすると、ほかのおもちゃがたくさん入っている袋に、そのクマをサッと入れてしまった。
クロースはこれでよしと両手をこすり合わせると、再びスクルージの腕をつかみ、寒い戸外に出かけて行った店長の後を追った。
店長は、暖かい光を放っている小さな教会の入り口の前で止まった。「ここも、クリスマスの光で満ちておるぞ!」とクロースが言った。
ぼくたちは教会の中に入り、最高に尊い贈り物が人に与えられたという物語が読まれる様子を見た。そして、贈り物が交換された。高価なものではなく、意味のある心からの贈り物だ。それらも、同じくクリスマスの光に満ちていた。
「メリークリスマス。」 おもちゃ屋の店長が少年に言った。その瞬間、ぼくたちは、それがぼくたちのリストにある煙突掃除の少年だとわかった。少年は大喜びでクマを受け取った。
「ありがとうございます! 神様があなたを祝福してくださいますように!」 少年は声高に言った。すると、部屋の中が輝きを増したようだった。礼拝の終わりには、少年が最高に尊い贈り物を受け取るための祈りもされた。もう一つの花が、光と喜びに開いたわけだ。
ぼくたちが再び空中に舞い上がると、クロースが言った。「あの少年はな。そのクマを自分の物にはせんのだよ。」
「なぜだ?」とスクルージ。
「その少年のことは、わしがよく知っておる。その少年は、クマを弟にプレゼントするのじゃ。」
スクルージは残念そうだった。「では、なぜ少年にクマを二つ、あげなかったのだ?」
「与えることで、より大きな祝福をもらえるというのに、その機会をうばってしまうのかい? まさか! 少年の愛と祝福は、思いやりや親切が表されるたびに、何倍にも何十倍にも増えていくのじゃ。それが、すばらしいマジックというものじゃないのかい?」
スクルージは、ゆっくりとうなずいた。
時計が深夜の12時を打つと、クロースははっとした。「こりゃ、大変じゃ! もうこんな時間とは!」
スクルージもぎょっとしたようだった。「おお! もう行かなくてはならないなどとは言わんだろうね!」
「悲しくも、現世における人間とのやりとりにおいては、時間にしばられているのです。」 ぼくが答えて言った。
「だが、リストの残りはどうなるんじゃ? わしのとなりのアパートに住んでいる少女は? ただ、このまま去るわけにはいくまい! そりゃ、あんまりじゃ。」
「わしにリストをよこせ!」 そうさけぶと、スクルージはそれをクロースの手からひったくった。「おまえさんがこのリクエストを遂行しないなら、わしがするからな。とっとと家に返してくれ!・・・あ~いや~、返してくだされ。」
「よろしい。」 クロースはぼそっと言うと、ぼくにウィンクした。ぼくたちはまたそりにぎゅう詰めになって、スクルージの家へ一直線だ。クロースとスクルージが窓から中に入ると、ぼくはトナカイと外で待った。それがぼくの仕事だからね。中で何が起こっているかは聞こえなかったけど、年取ったスクルージのアパートの中の明かりはどんどん明るさを増してきて、クロースがせまい煙突から何とかかんとか出てきたころには、古い建物は全くもって、暖かさと幸せを解き放っていた。煙突の中からは、スクルージの声がひびいてきた。「万歳、万歳、万ざ~い! みんなみんな、メリークリスマス! そして、みんなに良い新年があるように!」
クロースとぼくは、顔を見合わせてほほえんだ。「ミッション完了。家に帰りましょうか。」
ぼくたちが夜の冬空の中で消えると、ぼくたちの衣装も消え、しまっていた翼が元通りに広がった。トナカイは喜びおどる天使に姿を変えた。ぼくはサンタ役に言った。「ねえ、ガブリエル。今回のミッションはちょっと変わっていたけど、うまくいったね。」
ガブリエルはほほえんだ。「神をほめよ! このすばらしい時に、天国中が賛美の歌を歌っている。さあ、ぼくたちもいっしょに賛美の歌を歌おうよ、ラファエル!」
ということで、ぼくたちは共に讃美歌を歌った。「御神の愛をば」(聖歌85)だ。
御使い 聖徒たちよ、神の 威光を 歌え
月、星、太陽よ、神を 讃えよ
雪の 降る 高嶺も、花が 咲く 谷も、
林も 野原も 砂漠も 海も
神様は 罪のある 者をも 愛し、
御子である イエス様を 遣わしてくださいました。
ゆるしの 御恵みや、聖めてくださる 力は、
文章にも 言葉にも、言い表しきれません。
-ヘンリー・J・ダイク(1907年)
終わり