マイ・ワンダー・スタジオ
トラッジ と ジッピー
水曜日, 9月 5, 2012

トラッジと ジッピー

 ジッピーは、少し いらいらしてきました。今日は、森に カーニバルが 来ているのです。先週から ずっと、その カーニバルに 行くのを 楽しみに していました。それなのに、お父さんも お母さんも、弟たちも 妹たちも、出かける 支度が とっても おそいのです。やっとの ことで みんな 道に 出て、今度は ジッピーの 友だち トラッジを 待っています。ですが、一体 トラッジは どこに いるのでしょうか?

 「トラッジ! トラッジ! どこに いるんだい? 朝早くから 行って 全部の 乗り物に 乗れるように、もう 準備が できてるはずだよ。早く 行こうよー!」

 すると、スイレンの 葉が ガサガサっと 動き、水の 中から トラッジが ひょっこりと 顔を 出しました。

 「やあ、ジッピー! 万事順調、ぼくは ここだよ!」

 「エヘン。」

 「しまった。ごめんよ、ジッピー。朝の 一泳ぎを してたら、すっごく 気持ちよくて、つい 時間の ことを 忘れちゃったよ。」

「ううん、いいんだよ。だれでも うっかりする ことは あるからね。それよりも、早く 行こう! みんな、待ってるよ。お父さんと お母さんが、出かける 前に みんなに 話したい ことが あるんだって。」

 「ジッピー、君って、ホントに いい 友だちだよ。ねえ、カーニバルまで、ぼくの 背中に 乗ってかない?」

 「わあ、ありがとう、トラッジ!」

 「お安い ご用さ。」

 カメの トラッジには 固い こうらが あるので、ジッピーを 乗せて 歩けるのです。トラッジの こうらは、黄色と 緑色の まだらでした。友だちの ジッピーは 野ネズミで、灰色です。毛は 短く、ちっちゃな かわいい 耳が ついています。しっぽは 細長くて、針金のようでした。ジッピーは、トラッジの 池の そばに 住んでいて、二ひきは 毎日 いっしょに 遊んでいました。

 「さあ、行こう。支度が できたって、みんなに 知らせてくるね。」 ジッピーが ビューンと 道に 向かって かけ上がって行くと、トラッジは その後を のっそのっそと 登って行きました。

 みんな、わくわくです。行く時は みんなで いっしょに 行き、カーニバルに 着いたら、トラッジと ジッピーは しばらくの間、二ひきだけで 行動して いいことに なっていました。

 やっと トラッジが 道に たどり着くと、父さんネズミが 話し始めました。「子どもたち、よく お聞き。今日は、森も カーニバル会場も、動物たちで いっぱいだ。乗り物や 見世物は そこら中で やっているから、混雑の 中で すぐに はぐれてしまうかも しれない。だから、もし はぐれたら、とにかく 4時に 岩の 広場で ほかの みんなと 会うことに しよう。

 一人一人のために、森と カーニバル会場の 地図を かいておいたからね。それと、おまえたちの 名前と 住所を 書いた 紙も 母さんが 用意してくれたから、万が一、まい子に なって だれかに 助けを お願いする時には 使いなさい。」

 父さんネズミは いつも、まい子に なったら どうするか、子どもたちが 分かっているか どうかを 確認します。「ああ、最後に もう一つ。動物たちは みんな、カーニバルの 間は マナーを きちんと 守り、ほかの 動物に めいわくを かけないと 約束している。」

 「だがな、気を つけるんだぞ。じいちゃんネズミが いつも 言っているだろう? 『カーニバルだろうと 何だろうと、しょせん、ネコは ネコ』だって ことをな。」

 「うわ~!」

 「あなた、子どもたちが こわがるわ。ネコの 話は、もう 十分よ。」

 「それも そうだな、母さん。では みんな、行くと しよう。楽しんでおいで!」

 「わーい!」

 「トラッジと ジッピーは、いつも いっしょに いて、気を つけるんだぞ。わしらは 先に 歩いて行くが、あまり おくれんようにな。では、4時には 岩の 広場で 会おう。」

 「さあ、乗った、ジッピー! 出発だ!」

 ジッピーが こうらに すわると、トラッジは のっそりと 歩き始めました。自分では 走っている つもりなのですが、トラッジには 全速力でも、ネズミの ジッピーには のろのろ運転です。

 「ねえ、トラッジ。もうちょっと 速く 歩けない? カーニバルが 待ち切れないよ。」

 「確かに、ぼくは 君と 比べたら おそいよ、ジッピー。だけど、少なくとも ぼくは 安全運転さ! そのうち 着くから、心配ないよ。」

 「そのうちだって? トラッジって、のんきだなあ。ぼくの 家族は、もう 見えないよ。」

 ジッピーは、トラッジが 大好きです。ただ、友だちが カメだと、それは それは、しんぼう強くないと いけません。ジッピーは あお向けに なって、白い ふわふわした 雲が ゆっくりと 動いていくのを ながめていました。やがて ジッピーは うとうとし始め、ねむってしまいました。大きくて おいしそうな チーズケーキの 夢を 見ながら・・・。

 「わーい!」

 歓声や 音楽なんかの 音で、ジッピーは 目が 覚めました。カーニバルに 着いたのです。

 「着いたよ、ジッピー!」

 「うわあ、わくわくするなあ! 乗り物に 全部 乗って、おいしいものを 全部 食べて回るのが 待ち切れないよ!」

 「ポップコーン、ポップコーン! ポップコーンは いかがかね?」

 「ひゃー、ここって、すごく でっかいねえ! 全部 回るのに、何日も かかるよ!」

 「それなら、早く 行かなきゃ! トラッジ、こっちこっち!」

 「待ってよ、ジッピー! 速すぎて、ついていけないよ。」

 「分かった、分かった。ねえ、あそこに おっきな 観覧車が ある! あれに 乗らない?」

 「うん、面白そうだね。」

 そこで 二ひきは、楽しそうな 音楽が 聞こえてくる、大きな 観覧車の 方に 行きました。

 二ひきが 乗ると、観覧車は どんどん、どんどん、上に 上がって行きました。森の 木々よりも 高く 上がって行きました。はるか 遠くの 景色まで よく 見えます。下を 見ると、みんな、豆つぶのように 小さく 見えます。

 「わあ! 下を 見て、ジッピー! 空を 飛んでいる 鳥たちには きっと、ぼくたちが あんなふうに 見えるんだね。」

 「そうだね! 見て、あっちの 広場。真ん中に 大きな 岩が あるよ。4時に みんなと 会う 岩の 広場だね。」

 その日、仲良し二ひきは、遊んで 遊んで 遊びまくりました。メリーゴーランドにも 乗りました。

 「ホントに 楽しいね。」

 バンパーボートにも 乗ったし、大きな ティーカップにも 乗って、ぐるぐる 回ったし・・・。手品師トムキャットの マジックショーだって 見ました。

 「ジッピー、ネコについて お父さんが 言ってたこと、覚えてる? 十分 はなれてないとね。」

 「そうだね、トラッジ。後ろの 方で 見ようね。」

 「見て、ジッピー。あっちに カワウソが いる。ピエロの かっこうを しているよ。」

 「カワウソだって? すっごい おかしいね!」

 「みなさん、乗ってくださーい。」

 「最高に こわい 乗り物、こうらから 飛び出しそうなくらい こわいよ! カメ限定。」

 「ポップコーン、ポップコーン! ポップコーンは いかがかね?」

 「しぼりたての ジュースだよ。」

 「キャラメルは いかがかね? キャラメル、キャラメルだよ。」

 「うわあ、おなか へったなあ。あそこの スタンドへ 行って、何か 買おうよ。」

 「うん、行こう、行こう! ぼくも おなか ペコペコ。」

 「さあ、ぼうやたちは 何が 食べたいかね?」

 「え~っと、ぼくは、あの おいしそうな チーズケーキが いいな。それと、ポップコーンを ください。」

 「トラッジは 何に する?」

 「う~んとね。そうだ、虫バーガースペシャルに するよ。」

 「すぐに できますよ。ほかには?」

 「えっと、海草フライを 付けてください。」

 「はい、どうぞ。」

 「ありがとうございます!」

 「う~ん、この チーズケーキ、おいし~!」

 「この 虫バーガー、食べてみる? すごく おいしいよ。」

 二ひきは、それは それは 楽しい 時を 過ごしました。そして、あっというまに 1日が 過ぎてしまいました。日は かたむき、もう 岩の 広場に 向かう 時間です。ちょうど その時、もう一つ、まだ 見ていない アトラクションが あるのに 気が つきました。

 「ねえ、トラッジ。森の そばに 看板が あるよ。『ぐちゃぐちゃ迷路』だって。まだ 入ってないよ。」

 「あ~、でも、何か ちょっと 暗くて 気味悪そうだなあ。それに、もう 広場に 行かないと。ぼくは、君よりも 歩くのが おそいしね。」

 「ぼくの 勘だと、広場は この うっそうとした 森の ちょうど 向こう側だと 思うんだけど。ぐちゃぐちゃ迷路を 通れば、近道が できるよ。」

 「そうかなあ。もし 近道が なくて、まい子に なっちゃったら どうするの? 君の お父さんが くれた 地図を 見てみようよ。」

 「分かったよ。え~っと。確か、この辺に 入れてたはずなんだけど。あれ、ないなあ! きっと、乗り物に 乗ってた 時に 落としちゃったんだよ。まあ、いいや。地図なんて、なくても だいじょうぶさ。ぼくは ネズミだからね。暗くても、道は 分かるんだ。トラッジ、ちょっとは 冒険してみようよ!」

 「冒険かあ。ぼくも、乗り物に 乗ってた 時に 地図を 落としてきちゃったみたいだよ。」

 ジッピーは、何とか トラッジを なだめすかし、とうとう トラッジも、ぐちゃぐちゃ迷路に 入ることに しました。

 「う~ん、分かったよ。君が そこまで 言うならね。」

 うっそうとした しげみの 中に 入って行くと、ジッピーが 思っていたよりも、道は ずっと ごちゃごちゃしていました。

 「ねえ、ジッピー。ぼくたち、今 どこに いるんだろう? どっちに 行ったら いいんだろう?」

 「え~っと、たぶん こっちだよ。」

 「ああ。」

 「いや、そっちかも しれない。それとも、こっちかな。いや、あっちだ!」

 二ひきは、後ろを ふり返りました。どの道を 行けば、森の 入口まで もどれるのでしょうか? 木や しげみが うっそうと していて、空も ほとんど 見えません。少し 先の方だって、見えないのです。

 「どうしよう! どうしたら ここから 出られるだろう、ジッピー?」

 「ああ、分かってる、分かってる。こっちに 行こう。早く 早く。後ろかな、左かな、いや、右かも。いや、真っ直ぐ 行ってみよう。早く、こっちだよ・・・」

 ジッピーは、こっちに ちょこまか、あっちに ちょこまか、そっちに ちょこまか、こっちを のぞき、あっちを のぞきして、見覚えの ある 道は ないかと、せわしなく かけ回ります。かわいそうな トラッジ。道を 曲がって 坂を 上ったと 思ったら また 降りて、歩いて 歩いて 歩きづめで、もう へとへとです。それでも、道は まだ わかりません。

 「ねえ、ジッピー。ぼくたち、まい子に なっちゃったんだよ! やっぱり、来なけりゃ よかったんだ。最初は ちょっと 面白かったけど、だんだん こわくなってきちゃった。もう おそいし、うちに 帰りたいよ。」

 「ぼくもだよ、トラッジ。」

 「どうしよう?」

 「わ、分からないよ、トラッジ。君の 話に 耳を かさなくて、ごめんね。君の 言う通りだったよ。こんなに おそいのに、ぐちゃぐちゃ迷路になんか、入るべきじゃ なかったんだ。だれも いないから、きける 人も いないしね。」

 「そうだ、ジッピー。助けてくれる 人が いるよ。」

 「だ、だれだい?」

 「あのね、母さんが いつも 言ってたんだ。何か こまった ことが あれば、イエス様に 話しなさいって。」

 「それは いい 考えだね。イエス様なら、ここから 出る 道だって、知ってるしね。祈って、助けてもらおうよ。」

 「うん、祈ろう。」

 「イエス様、ぼくたち、まい子に なってしまいました。どうか、助けてください。みんなと 会う 場所への 道が 見つかりますように。

 二人は しばらくの間、静かに して 頭を たれていました。

 急に、ジッピーが 顔を 上げました。とても うれしそうです。

 「あれ、聞こえる?」

 「何だい、ジッピー?」

 「音楽だよ。あっちの 方から、観覧車から 聞こえてた 音楽が 聞こえてくる。観覧車は、岩の 広場の 近くだったよね!」

 「そう 言えば、そうだね。」

 「だから、音楽の 聞こえる 方へ 行けば、観覧車が 見えてきて、広場も すぐに 見つかるよ。」

 「名案だね。じゃ 行こう、ジッピー!」

 二人は 所々で 立ち止まっては 耳を すまし、正しい 方へ 向かう 道を たどっていきました・・・。

 「こっちだ!」

 ・・・そして とうとう、二ひきは、よく ふみならされた 普通の 道に 出ることが できたのです。

 「木の 上を 見て! 観覧車の てっぺんが 見えるよ!」

 「ホントだ!」

 ジッピーと トラッジは、ほっと しました。

 「行こう!」

 ジッピーは うれしくて、思わず 観覧車の 方に 走り出しました。トラッジでさえ、カメとは 思えないほどの 速さで 走ったのです。そして とうとう、二ひきは 観覧車の 下に 着きました。

 「見て、トラッジ。広場に 向かう 道だよ。あそこ! イエス様が、道を 見つけるのを 助けてくださったんだね。」

 まもなく、二ひきは 野ネズミ一家と 無事、落ち合うことが できました。

 「あなたたちのことが 心配に なりかけていたのよ! ねえ、お父さん?」

 「全くだ。ちょうど、キツツキパトロールに 助けを お願いしようと していた ところだよ。」

 「無事に ここまで 来れて、本当に よかったわ。神様の おかげね。」

 「さあてと、みんな、家に 帰る 支度は いいかい?」

 「はーい!」

 その夜、仲良しの 二ひきが 空を 見上げると、星が キラキラ かがやいていました。二ひきは 今日の 冒険を 思い出していました。

 「万事 うまくいって、本当に よかったよ、ジッピー。」”

 「ホントにね! 一晩中 ぐちゃぐちゃ迷路を 歩き回らずに 済んで、すごく うれしいよ。」

 「ねえ、トラッジ。ぼくたちって、いい 仲間だよね。君は ゆっくりだから、時々 じれったくなっちゃうけど、友だちで うれしいよ。ぼくの 友だちで いてくれて、ありがとう!」

 「ぼくも、ちょうど おんなじ ことを 考えてたんだ、ジッピー。時々 君に 追い付けなくても、ぼくは 気に ならないよ。何てったって、君は ぼくの 最高の 友だちだもの。いっしょに いて、いつも すごく 楽しいよ。」

 「それに、ぼくたちには、イエス様っていう、最高の 友だちも いるしね!」

 「ホント、ホント、全くだよ、ジッピー。」

 そして 二ひきは、キラキラと かがやく 星空の 下で、すやすやと 眠りに ついたのでした。

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