アリッチとイモムッチ
アリの アリッチと、いもむしの イモムッチは、大の 仲良しでした。
やさしくて 面白い イモムッチの ことが、アリッチは 大好きでした。
ところが ある日の こと、イモムッチは 茶色の 固い ふとんに くるまったまま、動かなくなってしまいました。深い ねむりに 落ちたようで、いっこうに 目を 覚ましません。
アリッチは イモムッチの ことが 心配で、何度も お見舞いに 行きました。「イモムッチ! イモムッチ!」 アリッチが 話しかけても、イモムッチは 返事を しません。
それでも アリッチは、イモムッチが 大好きな キャベツの 葉っぱを イモムッチの 所に 運んで来ました。「おーい、イモムッチー!」 今日も 返事が ありません。
何日も たって、アリッチが また イモムッチに 会いに 行くと・・・。イモムッチの 茶色の ふとんが 破れていて、中に イモムッチが いません。アリッチは、イモムッチに 何か 悪い ことが 起きたに ちがいないと 思いました。
「もしかしたら、あの おそろしい カラスに さらわれたのかも しれない! ああ、かわいそうな イモムッチ、君は 一体 どこへ 行っちゃったんだい?」
アリッチは、空っぽの ふとんを 見つめながら、悲しく なってしまいました。
ところが そのころ、イモムッチは、茶色の 固い ふとんから ぬけ出して、空を 飛び回っていました。イモムッチは、チョウに なっていたのです。「わあ、なんて 広い 世界だろう! 空を 飛べるって、なんて すてきなんだ!」
下には、それは 美しい 世界が 広がっていました。チョウの イモムッチは、うれしくて たまりません。
「そうだ! アリッチは どこに いるんだろう? アリッチに、ぼくの 新しい 体を 見せてあげよう!」
イモムッチは、空の 上から アリッチを さがしました。すると、イモムッチの ふとんだった さなぎの ぬけがらの そばに、アリッチが 悲しそうな 顔で しょんぼりと 立っているのが 見えました。
イモムッチは さけびました。「おーい、アリッチー!」
「だれか、ぼくの 名前を 呼んでいる。」 アリッチは、きょろきょろと 周りを 見回しました。だれも いません。
イモムッチは もう一度、呼びました。「おーい、アリッチ! ぼくだよ! 上を 見て!」
アリッチが 顔を 上げると、そこには お日様の 光を 受けて キラキラ かがやく、一ぴきの チョウが いました。でも、アリッチには、それが イモムッチだとは 分かりません。
「アリッチ、ぼくだよ。イモムッチだよ!」
「イモムッチだって? じょうだんは よしてくれよ。イモムッチは、顔を 地面に こすりつけながら、えっちらおっちら、はって 歩く いもむしなんだ。ぼくを バカに するのは、いいかげんに してくれよ!」
チョウの イモムッチは アリッチに 言いました。「ほら、覚えてる? ぼくたち、いっしょに ピクニックに 行ったよ。花畑の キノコの 上で 食事したでしょう。その時、君は ぼくの 好きな キャベツの 葉っぱを 持ってきてくれたよね。」
(あの日の ことを 覚えてるのは、イモムッチしか いないだろうなあ。) そう 思うと、アリッチの 心臓は、ドキドキしました。「イモムッチ、本当に 君なのかい?」
「うん、そうだよ! 姿は ちがうけど、ぼくだよ!」 イモムッチは、ものすごく 幸せそうです。
アリッチは、チョウが イモムッチだという ことに、やっと 気が 付きました。イモムッチは、チョウに なったのです。こんなに 美しい チョウに なって、元気で 生きていたのです。
終わり