ブラッドフォード卿の 試練
ある 王国の 東側の 国境近くに、村が ありました。がんじょうな お城に 守られ、村人たちは そこで 働きながら、平和に 暮らしていました。城主は、騎士の ブラッドフォード卿でした。ブラッドフォード卿は、物静かで 賢い 騎士で、行動したり 発言したり する前に、人から 聞いたり、注意深く 調べたりするのを 良しと していました。王様は そういった 人格ゆえに、王国の 中心から 遠く はなれた この地域を 見守る者として、ブラッドフォード卿を 任命したのでした。
王国の この地域の 平和を 守る者として ブラッドフォード卿に 任された 責任は、重い ものでした。住民が 安心して 平和のうちに 暮らせるのは、お城が あって、武装兵が 待機しているからだけでは ないと いうことを、ブラッドフォード卿は よく 理解していました。人々の 暮らしが 守られていたのは、遠く はなれた にぎやかな 首都に 住む、王様の 支持と 保護が 約束されていたからに 他ならないのです。
ある日のこと、一人の 村人が 緊急事態を 知らせに お城に かけこんで来ました。このことで、ブラッドフォード卿と 部下たちが どれほど 王様を 信頼しているかが 試されることに なったのです。
その 村人の 名前は、メイベルと 言いました。メイベルは もう 長年、村の 近くの 国境沿いの とうげに 一人で 暮らしています。村人たちは、メイベルを 「森の女賢者」と 呼んでいました。
メイベルは ブラッドフォード卿に 通告しました。「わたし、見たんです。武装兵たちが 森の 中を こっそりと 移動しながら、わたしの 家の 方に 向かって来るのを。最初は ほんの 数人の とうぞくか 何かだと 思ったので、出て行って おどかそうと しました。ところが、近づいてみると、もっと 大勢の 兵隊たちが 小川に 沿って やって来るのが 見えたんです。みんな、よろいを 身に 付けて、軍旗も 持っていました。それで、最初に わたしが 見た 兵隊は、これから とうげを やって来ようと していた 大軍の ていさつ隊だったと 分かったんです!」
ブラッドフォード卿は、彼女の 話を 聞いて じっくり 考えました。これから どうしたら いいのか、おどろいている 女の人に 次から 次へと 質問を して、もっと くわしいことを 知ろうとしました。
「わたしが 見たのは、それだけです。」と、メイベルが 答えました。「軍隊を 見かけて、わたしは 真っ直ぐ ここへ 飛んで参りました。とちゅうで 敵の ていさつ隊に 止められそうに なりましたが、何とか にげ切って、ここまで かけつけたのです。」
「それは、たいぎであった。」と、ブラッドフォード卿は 言いました。
ブラッドフォード卿は、お城の 守衛官と 隊長に 向かって 言いました。「ミルフォード。召集警報を 出すのだ。兵隊を 送り出して、畑に いる者も 森に いる者も、一人残らず すべての 村人たちを 集め、1時間以内に 城の 中に 入らせよ。それまでは ずっと、警報を 出し続けるのだ。」
お城の 最も 高い 塔の 上から、ミルフォードは 召集用の 笛を ふき鳴らしました。このような 緊急の 時にしか 使わない、大きく 低い 音の 出る、特別な 笛です。ふき鳴らすたびに 等間隔の リズムで ドラムを たたいて、地域中に 警報の 音を ひびき渡らせました。
「敵が 攻めて 来るぞ。持ち運べるだけの 物を 持って、すぐに 城内広場に 集合せよ!」 兵隊たちは 村中や 周辺の 地域に 出て行って、村人たちに 呼びかけました。
まもなく すると、男の人も 女の人も 子どもたちも、みんな 服や 寝具や 食料品などの 荷物を 持って、村中から ブラッドフォード卿の お城へ 向かって やって来ました。
村人たちが お城の 広場に 集まりつつある ころ、ブラッドフォード卿は 王様あてに 手紙を 書き、使者に たくして 早馬で 送り出しました。
王様、
不意に 敵軍が 村に 攻めて来ました。現在 山沿いに 接近中です。村人は 全員、城の 中に 避難しています。ですが、城は まもなく 敵軍に 包囲されることでしょう。今すぐ、この 危険から お救いください。
王の しもべ、ブラッドフォードより
使者が 馬に 乗って 門を かけ出ると、村人たちの 歓声が 上がりました。「王様、ばんざい!」
まもなくして 最後の 村人たちが お城の はね橋を 渡ると、敵の 兵隊が 見えてきました。
敵軍の 行列が 道を かけ下って来ると、ブラッドフォード卿が 命じました。「格子戸を おろして、はね橋を 上げよ!」
敵軍の 中から、非常に 腹を 立てた 兵隊が はげしく 息を 切らせながら、お城の 堀まで やって来ました。そして、すぐに ブラッドフォード卿を 呼んで さけび始めました。
ブラッドフォード卿が お城の 高い 所から 顔を 出すと、すぐに 敵が だれか 分かりました。20年も 会っていない、メレクという 男です。メレクは「悪党プリンス」として 国中に 知れ渡っていました。何年も 昔、王様が メレクを その土地の 君主に しなかったため、彼は 腹を 立て、いつか 仕返しに もどって来るからな、と ちかいながら、国を 出て行ったのでした。
「メレクよ、久しぶりだのう。一体、何の 用だ?」と、ブラッドフォード卿が 下に いる 男に さけび返しました。
悪党プリンスは いら立ちながら さけびました。「おれは、自分の ものを 取り返しに 来ただけだ。武器を 捨てろ! ていこうせずに 土地を 明け渡したほうが、村人の 身の ためだぞ。」
すると、ブラッドフォード卿が 答えました。「お前の ことなど、こわいものか。王には すでに 助けを 求めている。すぐにでも、力強い 援軍が 来るだろう。お前の ほうこそ、家来を 連れて 帰ったほうが いいぞ。」
けれども、悪党プリンスは いっこうに ひるみません。おこって 言い返してきました。「降伏しないなら、村もろとも 滅ぼしてやるからな。そして、おまえも 村人も、おれ様の どれいに してやる!」
お城の 中では、ブラッドフォード卿が 村人に 現状を 説明しました。「悪党プリンスは 危険な 男だ。何年も 昔 自分の 思い通りに ならなかった 仕返しに、できる限り 大きな 損害を 国に 与えたいだけなのかも しれない。やつに 降伏するなんて、もっての ほかだ。われわれは ただ、王様が 軍を 率いて 助けに 来てくださることを 信じて 待たねばならない。」”
村の 長老の 一人が 言いました。「確かに そうですが、早く 王様が 来てくださらなければ、敵が わたしたちの 土地も 家も めちゃくちゃに 荒らすでしょう! 木々を 切りたおし、家畜を 殺すでしょう。あやつが この辺りに いる限りは、何を されるか 分かったものでは ありません。」
最初に 敵の 軍隊を 見つけて 知らせに 来た、森の 女賢者 メイベルが 口を 開きました。「そのように 弱腰に なっていては いけません。そもそも、どうして わたしたちが 王様を 信頼しているのか、考えても みてください。正当な 理由が あるのでは ありませんか? せっかちに なって 信頼を ぐらつかせるのでは なく、王様が 何か してくださるのを 待とうでは ありませんか。」
お城は 今や、悪党プリンスの 軍隊に 包囲されています。もう 使者を 送り出すことは できません。少なくとも、人が お城の 外に 出ることは できないのです。それで、ブラッドフォード卿が 書いた 次の 手紙は、伝書バトの 足に くくり付けられて 送り出されました。
王様、
敵は 今や、われわれの 城を 包囲しています。感謝すべきことに、村人は 全員、城内で 無事です。
攻めてきた 敵軍を 率いているのは、悪党プリンス、メレクです。メレクは、この地域を 取り返すために 来た、降伏せよ、と 要求しています。
現在、われわれは 強固な 城壁に 守られているので 無事です。弓の 射手や 見張りも 配備されています。今しばらくは 安全ですが、敵が わたしたちの 土地を 荒らすのではと 心配です。いつまで 持ちこたえられるかは 分からない 状態です。
手紙を 受け取った 王様は、深い 関心を いだきました。部下は、村が 直面している 困難と 懸念を つぶさに 報告しました。村人は、王様が 問題を 解決してくださるのを 頼みに しているとの ことでした。
それらの 情報を 受け取り、王様は、この 形勢を 一変させるため、ある 計画を 思いつきました。
けれども、王様の 計画が 進められている間、城内では 王様が 何を しているのか 分からないので、中には こわくなる 村人たちも 出てきました。
「何て おろかな ことを するんだ! 敵の 軍勢は 多すぎる。出て行っても、殺されるだけだぞ。」 ブラッドフォード卿が さけびました。
真夜中の 出来事でした。敵に 夜討ちを かけようと、ミルフォード守衛官が 一にぎりの 兵隊と 出て行こうと しているのを、ブラッドフォード卿が たまたま 見つけて 止めたのでした。
「われわれは、王様に 助けを 求めたのだ。信じて、王様の 来られるのを 待つべきであろう。生きて この 危機から 脱出するには、ほかに 道が ないのだ。」
「ですが、もし 王様が おいでに ならなかったら、どうするのでしょう? 村人たちに、何と 説明するのですか?」と、ミルフォードが 言いました。
たまたま その時は ミルフォードを 止めることが できたものの、もし 王様が すぐに 来られないなら、自分たちの 兵隊たちまでもが はなれていってしまうかも しれないという、さらに 危機的な 状況に あることが、ブラッドフォード卿には 見て取れました。
(続く。)
* * *
これまでの お話:ある 王国の 中心から 遠く はなれた 国境沿いの 村と お城が、悪党王子メレクに 攻撃されました。城主である ブラッドフォード卿は、王様に 使いを 送って 援軍を 求めました。ところが、援軍が すぐに 来ないために、村人たちは 不安に 感じ、自分たちだけで 事を 成そうとする 者まで 出てきてしまいました。
その 翌日の こと。村人が お城に 避難してから 1週間が たって、王様が 大軍を 率いて 到着しました。
悪党王子メレクは 内心 感心しましたが、そしらぬ ふりを しました。
「ずいぶん 長く かかった ものだな。」 話し合いのために 王様と 面と 面を 合わせた メレクが 言い放ちました。
敵の 無礼に 立腹した 王様が 言いました。「お前には、こんな 所に 現れる 権利など ないはずだ。ここは わが王国の 一部だ。わが民を 守るために、わたしは 来た。お前は さっさと 帰るが よい。」
すると、悪党王子が さけびました。「それなら、わたしを 去らせてみよ! わたしは 戦など、ちっとも こわくは ないぞ! かかって 来い。この村が 本当は だれの ものか、決着を つけようじゃ ないか。」
この 様子を お城の 塔や 城壁の 上から 見守っていた 人たちは、悪党王子の 無礼さに 息を のみました。
「王様に 戦を いどんで くるとはな! 今こそ、王様が 目に物 見せてくれるわ!」 ミルフォード守衛官が 大声で 言いました。
「ブラッドフォード卿、あなたこそ 最初から ずっと 正しかったのです。王の 援軍なしに 何か できるなどと 思った わたしが 浅はかでした。」と、ミルフォードが 言いました。
村人たちは、悪党プリンス軍が 負けるのを 今か今かと 1日中、熱心に 見守っていました。
けれども、王様が だれも 予期しない 行動を したために、みんなは 混乱します。侵略軍を 攻撃する 代わりに、王様と その軍は、お城と 悪党王子の 軍隊を 見下ろせる 場所に 野営しながら、じっと そこに とどまったままだったのです。
何日も 過ぎ、メレクの 高慢さと 横柄さは だんだんと 度を 増していきました。「お前たちの 王は、腰ぬけじゃ ないか! おれの 軍が 強すぎると 分かったようだな。弱虫の 王など 当てに せず、降伏しろ。」
お城の 広場に いた 人たちも、日に日に 気がかりに なってきてしまいました。ブラッドフォード卿は、みんなに じっと しているように 命じました。「王様は、われわれの 難儀を ご存じだ。今すでに ここに いらっしゃるのだから、われわれを 見捨てる わけが ないでは ないか。」
王様が 全く 攻撃に 出ようと していないことで、お城の 中に 避難している 村人たちの 気は 休まりませんでしたが、王様は まちがっていた わけでは ありません。ていさつ兵や 情報集めの 兵を 大勢 送り出し、毎日 新しい 情報を 受け取っていました。敵軍の 中にさえ おとりの ていさつ兵が いて、王様の 戦略が うまく いっていると 分かっていたのです。
ある朝、王様の 兵たちが テントを たたみ、荷物を まとめているのを お城から 見た 人たちは 心配に なりました。ことも あろうに、その後 王様の 軍隊は 列を 成して 撤退してしまい、人々は ショックを 受けました。
腹を 立てた ミルフォード守衛官が 声高に 言いました。「王様は、一体 何を しておられるんだ? われわれを 助ける 力が ないのだろうか? われわれの ことなど、どうでも いいんだろうか?」
「王様は、何か 他のことの 方が もっと 重大だと 思われたのかも しれない。」と、ある人が 言いました。
「われわれは、二の次なのだろうか。ほかの 場所から もっと 緊急な 要請が あったのかも しれないぞ。それで、そっちを 助けに 行ったのかも。」 もう一人も 言いました。
「このような 大変な 時だから、王様は きっと、とても ご多忙なのに ちがいない。われわれは、自分たちだけで 戦わねば ならないことを 受け入れねば ならないのだ。」
メレクが せせら笑いながら 言いました。「ほら 見ろ! お前たちの 王が、にげて行くじゃ ないか! そろそろ 降伏するんだな。まず 王の 軍隊を やっつけたら、お前たちを 攻め落としに もどるからな。」 そのような 強がりとは 裏腹に、悪党王子も その 軍勢も、その日は ずっと、自分たちの 防備を 固めた 野営地から 一歩も 出ようとは しませんでした。
その日の 夜の ことです。悪党王子の 野営地から、ただならぬ さわぎが 起きているのが 聞こえました。城壁の 上から 見張りを していた 兵たちは、一体 何事かと やみに 向かって 目を こらしましたが、たいまつが いくつか 見えるだけで、ほかには 何も 見えません。夜が 明ける ころには、辺りは 今までに ないほど 静かに なっていました。
午前中 ずっと 様子を 見た 後、ブラッドフォード卿は 自分の ていさつ兵を 率いて、何が 起きたのかを 調べに 行くことに しました。「連れて行くのは 数人だけで いい。もし 何かが 起こって すぐに 撤退しなくてはならなく なったら、少人数のほうがすばやく城の広場にもどって来れるからのう。」と、ブラッドフォード卿は部下に言いました。
ブラッドフォード卿は 真っ先に 敵の 防御壁を よじ登って、敵の 野営地を のぞきこみました。おどろいた ことに、野営地は 大あわてで 撤退した 軍に 見捨てられたと 見えて、めちゃくちゃに なっていました。一人の 武装兵が 野営地を うろついていたので、ブラッドフォード卿が ひそかに 後ろから 近づき、その兵を 取りおさえました。
「降参する!」と、その兵が さけびました。
「一体、何が 起きているのだ?」 ブラッドフォード卿が 問いただしました。
「わ・・・分かりません! わたしは 熱を 出して ふせっていましたが、朝 目を 覚ましたら、だれも いなかったのです! わたしは、置いてきぼりに されたんです!」 その兵は なみだながらに 答えました。
「こいつを つかまえていろ。わたしが 調べてくる。」と、ブラッドフォード卿は 部下に 言いました。
いくつか 残っていた テントも、空でした。野営地は 見捨てられていたのです。ほっと 安心した ブラッドフォード卿は、ていさつ隊を 引き連れて お城に もどり、みんなに 宣言しました。「事態は 収まった。包囲していた敵軍は、撤退したのだ。」
まもなく すると、村人たちは お城を 出て、自分たちの 農場や 家へ もどって行きました。辺りは 散らかっています。特に、敵軍が 進軍してきた 所は、めちゃくちゃに なっていました。けれども、直したり 新しく 取りかえたり できないような ものは ありませんでした。見捨てられた 敵軍の 野営地から 集めた 資材が 大いに 役立ちました。
ブラッドフォード卿は、すぐにでも 旅立たねば ならないと 分かっていました。王様と 話さねば ならないからです。長年の間、彼は 王様への 忠誠を 固く 守ってきましたが、この 出来事で、ブラッドフォード卿は どうしても 分からない ことへの 答えが ほしかったのです。
村人たちが お城を 出て 自分たちの 家を 直すなど し始めると、ブラッドフォード卿は 後を ミルフォード守衛官に 任せ、お城を 出て 早馬で 国の 首都へと 急ぎました。
ブラッドフォード卿が 首都の お城に 着くと、家令が お城の 庭園で 待つように、王様は そこで 会われるから、と 言いました。
お城の 庭園は 美しい 所でした。果樹園に バラ園、プールに ふん水と、そこに 来た 者なら だれもが その 美しさに 目を うばわれるような 場所でした。その 美しさを 十分 満喫しないうちに、王様が 小さな 門を くぐりぬけて こちらへ やって来るのが 見えました。
「ブラッドフォード卿よ! よくぞ 来た。」 さっと 歩み寄りながら、王様が 声高に 言いました。
「悪党王子の 件では、災難じゃったのう。やつが いつか もどって来るとは 分かっていたが。」 王様は 昔の 事を 思い出すような まなざしで 言いました。「だが、それで 事が たやすくなる わけでは ない。ただ、お主の 知らせが すばやく 届いた おかげで、村を できる限り 早く 解放するための 行動に 移れたことは、うれしい 限りじゃ。お主の 部下や 村人たちが、この 災難から 立ち直りつつ あると いいのだが。」
ブラッドフォード卿は、足元を 見つめるばかりです。
「それで、友よ。何が 言いたいのか、申してみよ。えんりょは いらぬぞ。」と、王様が たずねました。
「はい、王様。王様は、われわれを 救ってくださったように おっしゃって おりますが。われわれの 見た ところでは、何と 申しますのか、王様は 何も してくださらなかったように 見えるのです。城の 広場に かくれている われわれは そのままで、ただ、運良く 悪党王子が ついに あきらめて 自ら 撤退していっただけのように 思えるのですが。」
すると、王様は なみだを 浮かべ、あわれみに 満ちた 声で 言いました。「ああ、ブラッドフォード卿よ! お主や 村人たちが たえしのばねば ならなかった 困難を 考えると、実に 気の毒であった。お主らの 命や 家が このような 危険に さらされたのは、全くもって ひどい 出来事であった。」
「だがしかし、わたしが 約束を 守ったことは 知ってほしい。わたしは しばしば、民が 理解できないような 方法で 物事を するが、必ずしも その 理由を 明かせるとは 限らないのだ。」
「ただ、今回は わたしの 言うことが 理解できよう。お主は わが忠実な しもべだ。これを 知れば、ほかの 者たちも わたしが いかに 物事を 成すか、その 判断を 信頼するよう はげましてくれるであろう。
まずは、軍隊を 集めるのに 時間が かかった。騎士や 兵隊たちの 多くが、各地を 守るために 出払っておったからのう。わたしと 共に 進軍するようにとの 召集命令に 応じるには、それなりの 時間が かかったのじゃ。
そして、お主の 村へ 向かった。悪党プリンスと その 軍勢に 真っ向から 対決するためにな。
悪党プリンスは、自分たちの とりでを 村に 築き、城を 包囲して、いつでも 戦える 態勢を 整えていた。わが軍が 敵軍を 直撃していたなら、勝つことは できたであろうが、悪党プリンスが 築いた とりでを 突破するには、かなりの 時間 苦戦することに なっていたであろう。そうすると、お主らは さらに 何週間もの 間、ろう城することに なりかねなかったのじゃ。その上、戦で 土地も ひどく 荒らされてしまうことに なる。
メレクは、自分らの 築いた とりでの 中に わが軍を おびき入れて 袋だたきに しようと ねらっていたが、われわれは その手には 乗らなかった。われわれが やつに 有利な 条件では なく、開けた 土地で 戦おうと していることを メレクは さとったのじゃ。
さて、そのころまでには、情報網たちからの 報告で、悪党プリンスと その軍勢が、わが軍の 強い 歩兵たちや すばしこい 騎士らを 相手に 開けた 土地で 真っ向から 戦うほどの 勇気は 持ち合わせて いないという ことが 分かっていた。つまり、わが軍が そばに いる限り、やつの 軍勢は 自分たちの 強固な とりでから 一歩も 外に 出ようとは していなかったという ことだ。それで、わが軍が 引くと、メレクも 安全な そのすきにと、そそくさと 撤退してしまったという わけじゃ。
ブラッドフォード卿よ、時が たてば、村人たちも、わたしに 信頼していれば 物事は うまく いくのだという ことが 分かるであろう。それが すぐに 分かる 者も いれば、一生 かかる 者も いるであろう。だが、わが民は いつも わが民で あることに 変わりは ない。例え わたしを 疑うことが あっても、わたしは 民の 願いに 応え続けるのだ。」
何か月も たったころ、王様が 村に やって来るという 知らせが 来ました。村は、王様を むかえる 準備で お祭り気分です。王様が 到着すると、家々の 窓からは 国旗が、木々の 間には 横断幕が はためいていました。子供たちは、身近に 王様に 会えたのが うれしくて、歓声を あげていました。
王様は 馬車から みんなに 手を ふって ほほえみながら、ゆっくり 村の 中の 広場へと 進んで行きました。王様が 女賢者の メイベルに 察した 表情で ほほえみかけると、彼女は ほおを 赤らめ、上品に おじぎを しました。
ある人が 馬車に 向かって 走って来ました。お城の 守衛官、ミルフォードです。ミルフォードは ひざまずくと、声高に 言いました。「王様! われわれが 無事で 安心していられるのは、一重に 王様の おかげです。はずかしながら、告白いたします。われわれが 包囲されている 時、わたしは 王様を 疑ってしまい、ほかの 者たちに 王様の 行動に 反するような ことまで 言ってしまいました。心から おわび申し上げます。」
王様は 馬車から 降りると、ミルフォードを 立ち上がらせ、だきしめて 言いました。「すべて、ゆるされた。大切なのは、お主らが わが助けを 求め、そして 村が 救われたという ことじゃ。友よ、たとえ わたしを 疑うことが あっても、わたしは いつでも、わが民を こよなく 愛する、うそいつわりの ない お主らの 王なのだ。」
さて、この お話は ここで 終わります。王様が 取った 行動について、いつまでも ぶつぶつ 言う 者は いましたが、大部分の 村人たちは、王様の 行動が 村人たちにとっても 村全体にとっても 最善であったと 分かりました。村人たちが どのように 考えたに せよ、王様は 常に、自分の 愛する 民を 見守り続けたのです。
終わり