シンプルな 礼儀作法
キャロルと リオラが 笑いながら ろうかを かけ降りて 来ると、ちょうど 書類や 資料の 山を 持って 職員室の 前を 通りがかった ジョーに ぶつかってしまいました。ジョーが よろめくと、書類の 山は そこら中に 散り散りに なってしまいました。
「何だよ!!」 そのまま 走り去ろうとする 二人に、ジョーが 声を 上げました。
「ごめん! 今 やってる 工作のために、備品室へ 紙を 取りに 行くとこなの。」 肩ごしに リオラが 大きな 声で 言いました。二人は あっという間に 角を 曲がって 姿を 消しましたが、キャッキャと はしゃぐ 声は、まだ ろうかに 鳴りひびいていました。
「あぁ、どうしよう?」 備品室に かけこんだ キャロルが 言いました。「オレンジ色の 工作用紙は、一番 上の たなだわ。私達には、まず 届かないわね。」
「さっき 職員室の 前を 通った 時、マーケル先生が いたわ。マーケル先生に 取ってもらいましょうよ。」 そう リオラが 言うと、二人は 備品室を 飛び出しました。
「マーケル先生!」 二人は、職員室で こちらに 背を 向け、机に 向かって すわっている 先生に 呼びかけました。「マーケル先生! 備品室に、取ってほしい ものが あるんです。先生!」
マーケル先生は 振り向いて、くちびるに 指を 当てました。先生は 電話中だったのです。
「オレンジ色の 画用紙に 手が 届かないんです。」 キャロルは 頼み続けました。明らかに、先生の 言いたい ことが わかって いないようです。「取って もらえませんか?」
そこへ タイナ先生が 通りがかりました。「私が 取ってあげるわよ。」 タイナ先生は、親切に そう 言ってくれました。
「よかった。」 リオラは ほっとして 言いました。「先生、こっちです。」
翌朝の ことです。3年生の 担任である ギニソン先生が、時間に なっても 来ません。子供達は、20分以上も 待ちました。やっと 先生が 来ると、先生は あいさつも せず、おくれた 理由を 何も 説明しないまま、いきなり ローマ帝国の 歴史の 授業を 始めました。
「古代の ローマ時代と 今とで、ちがう 点を 言える 人は?」 授業を しばらく 進めた 後で、先生が 質問しました。
何人かの 人が 手を 上げました。「はい、ウィリアム?」
「一つは、人々は 旅を するのに・・・」
「昔は たくさん 歩かなければ ならなかったという ことね。」 ウィリアムが 答えを 言い終わる 前に、先生が 代わりに 答えを 言ってしまいました。
まるで ウィリアムを 無視するかのように、先生が 口を はさんで 答えてしまったので、子供達は おどろきました。歴史の 授業中、先生は ずっと、そのような 調子でした。
さて、歴史の 授業が 終わり、10分間の 休み時間に なりました。子供達が 教室の 外に 出ようと ドアの 方へ 歩いていくと・・・。突然、ギニソン先生が 子供達を 押しのけ、何も 言わずに 真ん中に 割りこんで、そのまま 出て行ってしまいました。
教室の 外では、キャロルが マリッサと リオラに、今週末 両親が 連れて行ってくれると 言っていた 遊園地の 話を していました。どんな 乗り物が あるか キャロルが 説明していると、急に ギニソン先生が 近づいてきて キャロルの 話に 割りこみ、先生の 上着を すぐに 戸だなから 取ってくるようにと マリッサに 言うと、そのまま 行ってしまいました。
リオラは キャロルの 方を 見て 言いました。「今まで、ギニソン先生が あんなふうに ふるまって いるのなんて、見た ことが ないわ。あなたは?」
「私もよ。」 キャロルが 答えました。「先生、私達が いた ことさえ、まるで 気づいて いないかの ようだったわね。」
この きみょうな 行動は、給食時間も 続きました。ギニソン先生が ウィリアムを 押しのけて 水を 取ろうと したので、彼は もうちょっとで フォークを 口に つっこむところでした。
それから、リオラが 野菜に 塩を かけていると、ギニソン先生が 塩を ひったくってしまいました。何も 言わずにです。そして、自分の 食べ物に 塩を かけると、テーブルに ひじを つき、口を 開けて ぐちゃぐちゃ 音を 立てて 食べ始めました。お腹が ペコペコだとか 何とか 口走りながら 食べていると、口の 中から レタスが 飛び出して お皿の 上に 落ちたので、子供達は ショックを 受けてしまいました!
給食が 終わると、ギニソン先生は ふつう、決められた 話を めいめいで 20分ほど 読書させます。その間、静かに 午後の 授業の 準備を するのですが、今日は ちがいました。コンピューターで 音楽を あれこれと 選曲し、それを スピーカーで 聞き始めたのです。ある 曲を かけたかと 思うと それを 止めて、次の 曲を かけました。ほとんどの 子供達は、読書に 集中するのに 苦労していましたが、ギニソン先生は 周りに むとんちゃくな 様子です。
20分ほど 経ちました。ギニソン先生は 音楽を 止め、いすに すわり直して 生徒達を 見回しながら、にっこりと ほほ笑みました。
「では、本を 片付けて。今から みんなに 説明したい ことが あるの。」と、ギニソン先生は 子供達に 言いました。
「まず 初めに、今日の 私の 行動で、何か 気が ついた ことは ある?」
みんな、シ~ンと だまっています。
ギニソン先生は にっこりしました。「今日の 私の 行動について、何か 言いたい ことは ない?」
またもや 沈黙です。
「今日の 私の 行動は、あなたたちに 対して 礼儀正しく 思いやりが あったと 思う?」
すると、みんなが いろいろと 意見を 言い始めました。
「そうは 思えませんでした。」と、ジョーが 答えました。
「ぼくが 質問に 答えようと していた時、最後まで 言わせて もらえませんでした。」 ウィリアムも 言いました。
「水差しを 取ってと 言う 代わりに、ウィリアムを 押しのけて 取ろうと しました。」 マリッサも 言いました。
「音楽で 気が 散って、読書に 集中できませんでした。」 アランも 言いました。
「今朝 どうして 授業時間に おくれたか、その 理由を 説明して くれませんでした。」と キャロルが 言いました。「それから、私が マリッサや リオラと 話していた 時、断りも せずに 会話に 割りこんできました。それだけでは なく、マリッサに 頼んでも いいか どうか 聞きさえ せず、すぐに 先生の 上着を 取ってくるようにって 言いつけました。」
ギニソン先生が 生徒達の 気持ちを きずつけたり、気分を 害したり、ひどい ふるまいを したり、愛想が 悪かったりした 点について 子供達が 話すのを、先生は じっと 聞いていました。
「今日 私は あなたたちに 対して、とても ふるまいが 悪かったわね。」と ギニソン先生が 言いました。「事実、今日の 私の ふるまいを 一言で 表すと したら、何て 言葉に なるかしら?」
「無作法ですか?」 ウィリアムが 聞きました。
「ええ、その通りよ。今日は みんなが、だれかに 無作法に されると どんな 気持ちが するかを 経験したわね。」
マリッサが 言いました。「私、大人の 人が、それも、特に 先生である人が そんな ふるまいを するなんて、全然 思っても みませんでした。そのくらい 分かってる はずですもの。」
「そうね、マリッサ。私達は そのくらい 分かっている はずよね。大人達は 小さい 時から ずっと、正しい ふるまい方を 教わって きたし、周りの 人に 対して 礼儀正しく 思いやりの ある ふるまいを すると いう 習慣を 築いてきたわ。
だけど、今日の 私の ふるまいは、むとんちゃくだったからじゃ ないの。実を 言うと、ある 目的が あって、わざと 無作法に ふるまっていたの。無作法な ふるまいを された 側が どんな 気持ちに なるかを 分かってほしかったからよ。」
「なぁ~んだ。」 リオラが 言いました。「私達も、時々 他の 人に そんなふうに 感じさせて しまっているって ことを 教えようと していたのね。」
「ええ、そうよ。」と ギニソン先生が 答えました。「みんな、素晴らしい 子供達だけど、時々 周りの 人達に 対して、かなり 思いやりが ないことも あるわよね。
私達が 他の 人に 対して、もっと 礼儀正しく して 尊敬を 示せる 点は あるかしら?」 ギニソン先生が 質問しました。「1か月の間、私達が 働きかけるべき 点を、忘れないように ホワイトボードに 書いておきましょう。そして、1か月の 終わりに、どれだけ 進歩できたかを 話し合うのよ。」
「それと、十分 進歩できてたら、お祝いできるかな?」と ウィリアムが 聞きました。
「もちろんよ。」と、ギニソン先生が 答えました。「どんな お祝いが したいかしら?」
みんなの 手が あがりました。そして、みんな 順々に、どんな 点で もっと 礼儀正しく したら いいと 思うかや、進歩を 祝うための アイデアを 話したのでした。
作者:不明 絵:キャサリン デザイン:ロイ・エバンス出版:マイ・ワンダー・スタジオ Copyright Ⓒ 2022年、ファミリーインターナショナル