ノグ星のお話:紫色の ぼうし
宇宙の かなたの ノグという 惑星に、ノグ星人が 住んでいました。ノグ星人は、体は 青く、目が 一つだけの、人なつこい 宇宙人です。ノグ星人は、パジャマのような 紫色の 服を まとっていました。ノグ星人は 紫色が 大好きです。彼らは、あざやかな 紫色の 樹液を 出す 木を 大切に していました。ノグ星人は、その樹液から 染料を 作り、それで 全ての 布を 紫色に 染めていました。
ノグ星には、ブロギッシュ王という 王様が いました。堂々とした 立派な 王様で、全ての ノグ星人に こよなく 愛されていました。
王様は、しばしば 紫色の 変わった ぼうしを かぶっていました。その ぼうしが お気に入りなのです。ところが、ある 悲しい日、その ぼうしが なくなって しまいました。ブロギッシュ王は、ぼうしが なくなったことを 非常に 悲しみました。家来達は 1日中、城の 中を すみずみまで 探し回りましたが、ぼうしは 見つかりませんでした。
ブロギッシュ王は、最も 信頼できる 賢い 相談役達に 助けを 求めて、こう 言いました。「なんじらなら、必ずや、私の 愛用の ぼうしを 見つけることが できよう。」
すると、賢い コントグが 切り出しました。「私の 思うに、昨日、母君を お訪ねに なられた時、母君の お屋敷に ぼうしを 置き忘れられたのでは ないかと 存じます。」
「ふむふむ、そうかも 知れん。」と、王様は 言いました。
「私は、王様が クータン*に 乗って 出かけられた 時に、頭から 落ちてしまったのでは ないかと 存じます。」と、偉大なる ベショットが 言いました。(*クータンは、ノグ星に 生息している、馬に 似た 動物。一つ目で 紫色の 毛を している。)
「ふ~む。それも 考え得る ことじゃな。」と、王様は 言いました。
「王様。私は、ぼうしの ありかを 存じ上げて おります。」と、せっかちな ダッシュフットが 言いました。「昨夜、バルコニーに お立ちに なられていた 時は、風が 強う ございました。それで、風が 頭の 上から ぼうしを さらって いったので ございましょう。その時分、風は 東に 向かって ふいて おりましたので、城の 東側の 野原を 探せば、必ずや、見つかることで ございましょう。」
「それも そうじゃな。」 王座から 立ち上がりながら、王様は 言いました。
「私は、なくなった ぼうしの ことで わずらい過ぎて、くたびれて しまった。もう 休むゆえ、この件は、有能な なんじらの 手に 任せることに する。なんじらなら、必ずや、私の ぼうしを 見つけるための 方法を 考え付くであろう。みんなが 仕事に 精を 出せるよう、見つけた 者には ほうびを つかわそうぞ。では、私は 休むと する。」
王の 相談役達は、どうしたら いいか、集まって 相談し始めました。
「まず 最初にだが。」と、ベショットが 切り出しました。「ダッシュフットの 考えは、完全に 当てが 外れておる。『風』とは 言っても、それは、ただの そよ風であった。王の ぼうしに 何が 起こったのか、私が 言ったことの ほうが、ずっと ありそうな ことじゃ。」
「何ですと?」と、ダッシュフットが さけびました。「君の 言ったことの ほうが、ありそうも ないばかりか、われらの 賢い 王が クータンに 乗って 出かける 際に、ぼうしが 落ちないよう、しっかり くくり付けて 行かなかったと 思うとは、ばかげて おる。」
すると、コントグが 言いました。「お二方は、王の ぼうしに 何が 起きたのか、おろかな 言い争いを 続けるが 良かろう。だが、王の 約束の ほうびを いただくのは、この 私だ。たまたま 昨夜、王が 母君を お訪ねに なったのを 知って おるのは、この 私なのだから。母君と お話しに なられた時、ぼうしを 取って どこかに 置かれたに 決まっておる。」
「友の 方々。」 おとなしい トシュギが ていねいに 言いました。「王の ぼうしが いかように なくなったか、みなさんは それぞれ 良い 意見を お持ちです。もし われわれが 身を 低くして、たがいの 意見に 耳を かたむけ、協力して 探すなら、ぼうしは きっと 見つかるでしょう。」
「ダッシュフットの 意見に 耳を 貸して、ぼうし探しに 手を 貸すだと?」 ベショットが 言いました。「偉大なる ベショットが、ぼうしを 探しに 野原を はいつくばるとでも 言うのか! 私のことを 何だと 思っておる? 野ねずみか?」
「だが、昨日 王が 通られた 場所を、ただ クータンを 走らせて行けば、ぼうしが すぐにでも 見つかると 考えるほうが、ばかばかしいでは ないか!」 ダッシュフットが さけびました。
たがいの 意見を けなし合う 言い争いは、延々と 続きました。終いに コントグが、自分こそが 3人の 内で 最も 賢いのだと 思いつつ、王の 母君の 家を 探すのだと、広間を 飛び出して 行きました。
トシュギが、探すのを 手伝おうと コントグに 申し出ましたが、コントグは 王の ほうびを だれとも 分け合いたく なかったので、トシュギの 申し出を 断ってしまいました。
ベショットも、すぐさま 王様が クータンに 乗って 通りがかった 森の 中を 探しに 出かけて 行きました。そして ダッシュフットも、野原に 向かいました。この 2人も、トシュギの 手伝いを 断りました。
トシュギは たった1人、ぽつんと 広間に 残されました。友が みな、相談しながら 協力して 王様の ぼうしを 見つける ことよりも、ほうびの ことばかり 考えているのを 見て、悲しくなって しまいました。
(私は ただ、手伝いたかっただけなのに。だが みんな、私に 手伝わさせては くれない。)と、トシュギは 思いました。
トシュギは 静かに 広間の すみに すわり、みんなの 帰りを 待ちました。ほうびは、だれが もらうことに なるのでしょう。ふと、トシュギが 辺りを 見回すと、王座にある 紫色の 大きな クッションに 出っぱりが あるのに 気づきました。
(出っぱりが あっちゃあ、王が すわられる 時、すわり心地が 悪かろう。すわり心地良くして 差し上げられるか、見てみると しよう。)
トシュギが クッションを 持ち上げて 平らに しようと すると、その 出っぱりが クッションの せいでは なく、クッションの 下に ある ものの せいだと 分かりました。何だろうと 手に 取って よく 見てみると、それは、王様の なくなった 紫色の ぼうしでした。
ぼうしが 見つかって、王様は さぞかし 大喜びするだろうと 考えると、トシュギは 思わず ほほえみました。
あくる日の 朝、王の 相談役の 4人全員が、再び 王様と 共に、広間に 集まりました。賢い コントグと、偉大なる べショットと、せっかちな ダッシュフットは めいめい、王様の ぼうしを 見つけるために 自分が どんなに 努力を 注ぎ、必死に 探し回ったかを、王様に とくとくと 語りました。けれども 最初の 3人の 話は みんな、結局 ぼうしを 見つけられなかったという 結末で 終わりました。
最後に、おとなしい トシュギの 番です。トシュギは 自分の 後ろから、王様の お気に入りの 紫色の ぼうしを 出しました。きれいに 洗われ、形も 元通りに 整えられて あります。王様は たいそう 喜んで、すぐさま ぼうしを かぶりました。
「ぼうしを 見つけてくれて ありがとうよ、トシュギ。さあ、約束の ほうびじゃ。」
城を 出ると、他の 3人の 相談役達が トシュギの 周りに 集まって来ました。みんな、一体 どこで ぼうしを 見つけたのか、聞きたくて しょうが なかったのです。トシュギは つつましく、事の いきさつを 話して 聞かせました。
ベショットと ダッシュフットと コントグは、だまったままでした。最近の 自分達の ふるまいに ついて、深く 考えて いたのです。
「ダッシュフット、私は 君に あやまらねば。」 ベショットが 言いました。「王の ぼうしが どこで なくなったのか、君の 考えを 見下したりして、悪かったよ。」
「ありがとう、べショット。」 ダッシュフットは 答えました。「だが、王の ぼうしは、バルコニーに おられた 時や クータンに 乗って おられた 時に 風で 飛ばされた わけでも なかった。私も、王の ぼうしを 見つけるのに 私の 考えが 一番だなんて 言い争った ことを、みんなに あやまるよ。」
「私達は みんな、トシュギに あやまらねば。」と、コントグが 言いました。「トシュギ、君は 私達が おたがい同士に 耳を 貸すようにと 言ってくれたが、私達は みんな、自分が 正しいことを 証明し、王の 約束の ほうびを もらうことばかり 考えていて、君の 言うことに 耳を 貸すことさえ しなかった。」
「みんな、ほうびを ひとりじめに したがって、君の 手伝いさえ 断ったよね。」 ダッシュフットが トシュギに 言いました。
「みなさん、ありがとう。」と、トシュギが 言いました。「気に しなさるな。王の 心づくしの ほうびで、いっしょに ごちそうを 食べに 行きたいと 思うのだが。来て 下さるかな?」
「それは それは! 何とも ありがたい ことだ、トシュギ!」 コントグが 声を 上げました。「喜んで、お供させて いただくよ。」
そして 4人の 相談役達は、ごちそうを 食べながら たがいの 友情を 楽しむために、連れ立って 出かけて 行ったのでした。