マイ・ワンダー・スタジオ
ドラの 庭園
水曜日, 4月 24, 2019

ドラの 庭園

 ドラは、今 8歳です。小さなころは、お母さんや お父さんの お手伝いを するのが 楽しかったものです。食卓の 用意を したり、食事の 後に 床を はいたり、明るい ほほえみで みんなを 幸せに するのが 大好きでした。特に、赤ちゃんの 弟 ダレンは、いっしょに 遊んであげたり 歌を 歌ってあげると 喜ぶので、とても 楽しかったことを 覚えています。みんなは よく、ドラが いて 本当に 助かるわとか、いっしょに いて 楽しいよ、などと 言ってくれました。

 けれども 少し 大きくなった 今では、自分でも どうしてか 分からないけれど、何だか 気むずかしく なってしまったようなのです。ダレンを 笑わせても 前みたいに 楽しくないし、最近は 家の お手伝いを したり 自分の 後片付けを する 気分にも なれません。ドラは、以前のように 幸せでは なく、それが どうしてか 分からずに いるのです。

 ある夜の こと、ドラは ベッドに 横に なって 泣き始めました。以前のように、やさしくて 明るい 女の 子に もどりたいと 思いました。自分の あわれな 状態を なげいていたら、ふと、心の 中で ささやく 声が したような 気が しました。「祈ってごらん! イエス様は 君を 助けてくれるよ!」

 ドラは ベッドの 上に 起き上がって、ランプの 明かりを つけました。部屋には だれも いません。きっと、ただの 想像だったのでしょう。ドラは 首を かしげながら、まくらに もたれました。

 目を 閉じると、またもや 声が しました。「祈ってごらんよ! イエス様は 答えてくださるから!」

 ドラは パッと 起き上がりました。「だれなの? わたしのこと、からかってるの?」

 なぞの 声が 一体 どこから 聞こえてくるのかと 部屋中を 見渡しましたが、何も 変わったことは ありません。変だなあと 思いながら、ドラは また 横に なりました。(もしかしたら、声の 言った通りに するべきなのかも しれない! 祈らなくちゃ いけないのかも!)

 ドラが 一人で 祈ったのは、久しぶりの ことです。以前は、両親に お休みの キスを した後、ベッドに もぐって 親友に 話しかけるように イエス様と お話しするのが 大好きでした。そんなことは もう、長いこと していません。今になって それを 思うと、イエス様と 話している時に 感じた、あの 心地よさが 恋しくなりました。

 ドラは 急に、だれか 話を 聞いてくれる 人が ほしいと 感じました。自分のことを 心から 分かってくれて、わからないことを 説明してくれる だれかが・・・。ドラには 最高の 友だち、イエス様が 必要だったのです。それで、ドラは 祈り始めました。

 「イエス様、わたしには 本当に あなたが 必要です。どうか、わたしが どうして こんなに みじめな 気分なのか、教えてください。そして、イエス様・・・。」

 すると ドラは、急に 安らぎを 感じ、まぶたが 重くなってきて、ね入ってしまいました。

 まもなく ドラは、自分が 庭園に いることに 気づきました。庭園を 囲っている 小さな さくは ボロボロに くずれかかり、通り道や 花だんは 雑草だらけです。もう 長いこと 手入れされていないことは、明らかでした。ドラは、思わず つぶやきました。「どうして、だれも この 庭園の 手入れを しないのかしら?」

 「それを 知りたいのは、わたしのほうよ!」 すぐ 後ろで、元気な 声が しました。ドラは、だれかと 思って ぐるっと 見回しましたが、だれも いません。反対の方を 見ていると、また 声が しました。「あなたなら、知ってるはずでしょ・・・。だって ここは、あなたの 庭園なんだもの!」

 ドラは またもや 振り返って、今 声の 聞こえてきた方を 見ましたが、だれも 見えません。「だれ? どこに かくれてるの?」

 「かくれてないわ。下を 見て。あなたの 真ん前よ。」

 ドラが 下を 見ると、バラの しげみいっぱいに 生えている 雑草の 中に、淡い ピンク色の バラの 花が さいているのが、やっとのことで 見えました。(でも、まさか バラの 花が 話すなんて・・・?) ドラは 花を もっと よく 見ようと、しゃがみました。すると、その 小さな バラの 花は、ほほえみながら 真っ直ぐ ドラの方を 見ていたのです!

 「心配ないわ、ドラ。あなたは 夢を 見ているの。夢の 中では、ふつうじゃ ないことが いろいろと 起こるでしょ。」と バラの 花が 言いました。

 ドラは いっしゅん、言葉も 出ませんでしたが、勇気を ふりしぼって 言いました。「これが 夢ですって? まるで 現実みたいだわ!」

 「夢は、現実を 表していることも あるの。それで、すごく 現実的に 見えるのかも。」と バラが 答えました。

 「そうか!」 急に ドラは、さっき バラの 花が、これは 自分の 庭園だから、ちゃんと 手入れしないと いけない、と 言ったことを 思い出しました。それで、バラが そのことを もっと 説明してくれないかなと 思いながら 言いました。「この 庭園は きっと、前は すごく きれいだったんでしょうね。」

 「ええ! 本当に きれいだったわ! 母親たちは 子どもたちを 連れて来ては ここで 遊ばせ、おじいちゃんや おばあちゃんたちは ベンチに すわって、花だんの 間で 楽しそうに 遊ぶ 子どもたちの 姿を ながめるのが 好きだったの。ミツバチや ハチドリも、花の 甘い みつを 吸うために やって来たのよ。ちょうちょが ここそこを 飛び回る 姿は、まるで 花そのものが 舞っているようだったわ。花だんには ゼラニウムや ヒナギク、菊や ツツジに、あらゆる 色と 大きさの バラの 花も さいていたのよ。通りかかる 大勢の 人たちが、わたしたち バラが 発散する すばらしい 香りを かいでいった ものだわ。」

 「だけど、今は だれも ここに 来たがらないの。花は みんな かれちゃったし・・・わたしも じきに かれるわ。」 バラの 花は 悲しそうな 顔を しました。ドラは、花びらから なみだが こぼれるのを 見たと 思ったほどです。色あせた 花びらは、ますます しおれてきました。

 ドラは ぎょっと しました。「かれないで! お願い! わたしが あなたを 助けてあげるから! どうしたら いいのか、教えてちょうだい!」 すると、バラは ほっとした 表情で 顔を 上げました。

 「まず 最初に、わたしの 周りに 生えている 雑草を ぬいてくれないかしら。雑草は、わたしが 必要な 栄養や 水分を、みんな 地面から 吸い取ってしまうのよ。」と バラが 言いました。

 「わかったわ!」 そう 言うと、ドラは 雑草を つかんで、思いっきり グイッと 引っ張りました。けれども、手の 中を 見ると、ぬけたのは 葉っぱばかりでした。

 「やり方が あるのよ。根元の方を つかんで 引っ張らないと。根っこから 引っこぬかないと、また 伸びてくるの。」 バラの 花は しんぼう強く 説明しました。

 ドラは もう一度 やってみました。今度は 地面近くの 根元を つかんで、力いっぱい 引っ張りました。すると、大きくて みにくい 雑草が、根っこごと ぬけました。けれども、何かが 変です! ドラが 地面から 雑草を 引っこぬいた時、いたみを 感じたのです。

 「いた!」 ドラは さけびました。身を かがめると、次の 雑草を つかんで グイッと 引っ張りました。この 雑草も 根っこから ぬけましたが、ドラは またもや いたみを 感じました。

 「いたい!」 ドラは また さけびました。一息 つくと、今度は 大きな たばに なった 雑草を 両手で がっしりと つかみ、歯を 食いしばって 一生けん命 引っ張ったら、根っこが ぬけた ひょうしに、後ろに 転んでしまいました。

 「いたーい!」 ドラは またもや さけびました。バラの 花は、この 様子を ずっと 静かに 見守っていました。ドラは 顔を 上げ、しかめっ面で バラの方を 見ました。(一体 どうなってるの? 正しい ことを してるんだと 思ってたんだけど?)と 言いたそうな、とまどった 顔です。

 バラの 花は、気の毒そうに ドラを 見ました。「正しい ことを するのは、大変な ことも あるっていう ことなのね。庭園の 雑草を ぬくには 努力が いるし、多少は いたむ ことも あるわ。だけど、心配は ご無用よ。手入れした 後の 庭園が どんなに すばらしく、また 美しく なったかを 見たら、そうして よかったって 思うわ。」

 ちょうど その時です。雲の 間から 明るい 光が 差してきて、ドラの 顔を 照らしました。まぶしくて 目を 閉じましたが、また 開けてみると、自分の ベッドの 中に いました。

 「起きる 時間よ、おねぼうさん。目覚まし時計が 聞こえなかったようね。朝ご飯が できてるわよ!」 お母さんの 陽気な 声です。

 学校に いる間、ドラは、庭園や バラの 花と 交わした 会話について、何度も 思い出していました。そして、また 庭園に もどって、ほかの 花たちのためにも 何か してあげたいと 思いました。

 でも、どうしたら もどれるでしょうか? 夢の 中の お話に すぎないのに! それとも・・・? すると、夢を 見る 前に 聞いた あの 声が、また 聞こえました。「イエス様に 聞いたら? きっと、教えてくれるよ!」

 (もちろんだわ。そう しようっと!)と ドラは 思いました。

 その夜の ことです。ドラは いつもより 30分も 早く ねる 用意を したので、お母さんは びっくりしました。

 「ねる 準備を するのが うれしそうだなんて、めずらしいのね。」 お母さんが ドラの 額に キスを して 言いました。

 「今日は 早く ねたいのよ、お母さん。お休みなさい!」

 「気分でも 悪いの?」

 「ううん。ただ、ねる前に イエス様と お話ししたいだけなの。」 そう 言って、ドラは お母さんを だきしめて キスすると、毛布の 下に もぐりこみました。

 「お休み、ドラ。あなたの 口から そんな ことが 聞けるなんて、うれしいわ。それに、とても 元気そうだし。」 そう 言って、ドラの お母さんは 部屋を 出て行きました。

 ドラは 部屋の 電気を 消して、祈りました。

 「イエス様。わたし、あの 庭園と バラの 花について、もっと 知りたいんです。どうか、教えてください!」

 (あの 夢は、夕べ ねる前に イエス様に 聞いた 質問と 関係が あるのかもしれないわ。もしかしたら、どうして 最近 みじめな 気分なのか、その 答えが あの 夢に あるのかも。)

 ドラは 祈りました。「イエス様、どうか、あの 夢が わたしの 質問と どう 関係が あるのか、分かりますように! お願いです!」

 すると、心の 中で またもや、あの なぞの 声が 聞こえました。「この 庭園は、君の 心の 庭なんだ。君の 心の 庭・・・心の 庭・・・」 声は だんだんと 小さくなり、ドラも ぐっすり ねむってしまいました。そして、気が ついたら、また あの 庭園に いたのです。ドラは わくわくしました。

 (今度こそ、この 庭園の なぞを 全部 つきとめよう!) ドラは 興奮しました。そして、ねむりに つく 前に あの 声が 言ったことを 思い出して、首を かしげました。(この 庭園は、わたしの 心の 庭ですって?・・・バラの 花に 聞かなくちゃ!)

 ドラは バラの しげみに 走り寄って、出しぬけに 言いました。「ここが わたしの 心の 庭だって、どういう 意味なの? 教えてちょうだい! わたし、知りたいの!」

 「こんにちは、ドラ! また 会えて、うれしいわ。元気?」

 「ええ、元気よ。」 ドラは 落ち着かない 様子で 返事を しましたが、バラは しばらく だまっていました。それで ドラは、自分が バラに あいさつさえ しなかった ことに 気が つきました。「あら、ごめんなさい。わたし、いきなり ここに おしかけて 来ちゃったわね。この 庭園について、もっと 知りたくなって、おせっかちに なってたわ。あいさつも しなくて、ごめんなさいね! 今日は 元気?」

 「あなたが 周りの 雑草を ぬいてくれてから、前より ずっと 元気に なったわ。」と バラが 答えました。

 「よかったら、もっと 教えてもらえないかしら? お願い。」

 バラが 言いました。「まあ、ていねいに 頼めるように なったのね。もちろん、喜んで 教えてあげるわ。」

 ドラは バラの しげみの そばに ある ベンチに すわると、期待の 目で バラを 見ました。バラが 話し始めました。「あなたは、とても みじめな 気分だったわね。それで、どうしてなのか、イエス様に 聞いたのよね?」

 ドラは うなずきました。

 「自分の 心の 庭の 状態が わかるように、イエス様は あなたを ここに 来させてくださったの。毎日の 暮らしで、どこを 直せば いいのかを 学べば、周りの 人たちも また、あなたの そばに いて 楽しいと 思うように なるわ。」

  まるで、ドラの 心の 中の 明かりが ついたかのようでした。「つまり、わたしが 庭を きれいに すれば、周りの 人たちも、前みたいに わたしと いっしょに いたがるように なるって ことなの?」

 バラは ほほえみました。「だんだん 分かってきたようね。雑草を 何本か ぬいたから、夕べは 良い スタートを 切ったわ。お母さんに お休みの キスを して、ぐずぐず 言わずに ベッドに 入ったから、お母さんは びっくりして 喜んでいたものね。」

 ドラには もう一つ、分からないことが ありました。「だけど、雑草を ぬいた時、どうして いたかったのかしら?」

 「そうね。雑草を ぬく時、土も いっしょに くずれて くっついてきたでしょう?」

 ドラは うなずきました。

 「毎日の 暮らしから 雑草を ぬくのも それと 似ていて、自分にとっても 大変な ことなのよ。」

 ドラは 深く 考えながら 言いました。「何だか 分かってきたような 気が するわ。つまり、雑草とは・・・」

 「・・・例えば、周りの 人たちに 対する 思いやりの ない 考え方や 行いなんかね。」と、バラが 言いました。「そのような 思いや 行いを 直していけば、雑草は 消えて、あなたの 庭園は また きれいに なるわ。」

 ドラは 荒れた 庭園を 見渡して、顔を くもらせました。

 「大変だわ。一体 どうしたら、そんな ことが できるかしら? やることが 多過ぎて、永遠に かかってしまいそうだわ!」

 「まあまあ、心配は ご無用よ。一人だけで やらなくても いいの。あなたの 最高の 友だちに お願いすれば いいのよ。・・・」 バラは ドラを なぐさめるように 言いました。

 ジリリーン! ドラは、ハッと 目覚めると ベッドの 上に 身を 起こし、目覚まし時計の ボタンを おしました。それから プルプルと 頭を ふって、今までの ことを 考えました。(そうだ、思い出した。わたし、庭園に いたんだわ・・・。それで、何を するんだったっけ。そうそう、雑草を ぬいて、庭園を きれいに するんだったわ。だけど、一体 どうすれば・・・。)

 ふと ドラは、バラが、ドラの 最高の 友だちについて 話していた ことを 思い出しました。(つまり、イエス様に たずねるっていう 意味ね。) それで ドラは 祈りました。「イエス様、どうか、今日、わたしが 庭園を きれいに するのを 助けてください。周りの 人たちに 対して 思いやりを 持ち、明るく ふるまえますように。」

 祈り終えると、ある 考えが 浮かびました。すぐに 自分の ベッドを きちんと 直して 部屋を そうじしよう、と 思ったのです。いつもは お母さんが 来て 言われるまで しないばかりか、言われても すぐに しない ことが しょっちゅう ありましたから。ドラは、すぐに 部屋を 片付け始めました。そして、お母さんが 階段を 上ってくる 足音が したころには、部屋は とても きれいに なっていました。

 「さあさ、ドラ。早く しないと、朝ご飯を 食べる 時間が・・・」 お母さんは そう 言いかけてから、きちんと 片付いた 部屋を 見て、あっけに とられてしまいました。

 「まあ、部屋を 片付けたのね! おどろいたわ。きれいじゃ ないの!」 お母さんは 大きな 声で 言いました。

 「だって、お母さんが 大好きだから。」 ドラは お母さんを だきしめて キスしました。

 (わあ、これって 楽しいわ。)と ドラは 思いました。

 丸1日中、ドラは 周りの 人たちを 喜ばすことを 考えました。そして、みんなが 今朝の お母さんのように、びっくりするのを 見るのが 楽しくて 仕方ありませんでした。しばらくして ドラは、人に 親切に したり 明るく ふるまうことで、周りの 人たちが どんなに 変わるか、考え始めました。(自分の 行いが 良いか 悪いかで、周りの 人たちに どんなに 影響していたかなんて、今まで 気が つかなかったわ。)

 その夜、ドラは 昨夜よりも もっと 早く、ねる 支度を しました。今日の 良い 行いで、あの 庭が どんなふうに なったかを 見るのが 待ち切れなかったのです。ドラは ベッドに 入って 目を ぎゅっと つぶって、一生けん命 ねようと しましたが、どんなに がんばっても ねむれません。すると、また 例の なぞの 声が 聞こえてきました。「また 庭園に 行きたければ、イエス様が 連れて行ってくれるよ。ただ、お願いすれば いいんだ。」

 ドラは すぐに 祈りました。「イエス様、どうか、あの 庭に 連れて行ってください。お願いします!」

 その時です、ドラは おだやかな 気分に 包まれました。何だか 前後に やさしく ゆられているような 気が します。心が 落ち着いてきて、ドラは 目を つぶりました。また 目を 開けてみると、ドラは 庭園の すみに ある ブランコに 乗っていました。真ん前には、バラの しげみが あります。

 「こんにちは、ドラ!」

 ドラが 顔を 上げると、バラが 葉っぱを ふって 手招きしています。「こんにちは!」

 「見て! わたしの 周りの 雑草が 全部 なくなったの! 本当に うれしいわ!」と バラが 言いました。

 ドラは、思わず ほほえみました。本当に、バラの しげみの 周りには、もう 雑草が 全然 ありません。けれども 庭園を 見渡してみると、そのほかの 場所は、まだ 以前と 同じです。

 「いい子に していれば、庭園は 以前みたいに きれいに なると 思ったのに。」 ドラは いくぶん がっかりした 様子です。

 「まあまあ、元気を 出して。庭園が こんなに ひどくなるのには とても 長い 時間が かかったのよ。だから、また 元通りに きれいに なるのにも、少し 時間が かかるわ。がっかりしないで! ただ、毎日 ちょっとずつ 前進すれば いいのよ。」

 「もっと 速く きれいに できる 方法は ないのかしら?」と ドラ。

 「そうねえ・・・。そう 言えば、できる ことが あるわ。地面は 今 とても 固くなってるから、雑草を ぬくのが 大変でしょう? だから、最初に 水を まいて、地面を やわらかく すると いいわ。」と バラが 言いました。

 「わかったわ。でも、お水は どこから 持ってくるの? ふん水は 干上がってるし。」と ドラ。

 「一番 いい 場所は、水源地。つまり、神様の み言葉よ。」と バラが 答えました。

 「神様の み言葉に 水が あるの?」 ドラは、首を かしげて たずねました。

 「ええ そうよ、ドラ。覚えてる? ここは、あなたの 心の 庭なのよ。だから、あなたの 心の 地面を やわらかく できる 水は、神様の み言葉の 水しか ないの。

 毎日 神様の み言葉の 水を やれば、心は やわらかくなって、あの みにくい 雑草を ぬくのが もっと 簡単に なるわ。それに、み言葉の 水は、草花も 生き返らせてくれるのよ!」

 「天から 雨が 降り、雪が 落ちて また 帰らず、地を うるおして 物を 生えさせ、芽を 出させて、種まく 者に 種を 与え、食べる 者に かてを 与える。

 このように、わが口から 出る 言葉も、むなしく わたしに 帰らない。わたしの 喜ぶ ところの ことを なし、わたしが 命じ送った 事を 果たす。」(口語訳聖書、イザヤ書 55:10-11)

 お父さんと お母さんが 初めて 子供向けの 聖書を 買ってくれた 時には、毎晩 ねる 前に それを 読むのが 楽しみだったものです。お父さんと いっしょに 聖書の 映画を 見るのが 楽しかったことを 思い出すと、ドラは 思わず ほほえみました。けれども、最後に お父さんが 自分と いっしょに 聖書の 映画を 見ようとした 時には ふくれっ面を したことを 思って、ドラは また 悲しくなってしまいました。

 今 この 庭園を 見渡してみると、確かに 毎日の 生活に み言葉の 「水」が 欠けていたことが 分かります。けれども ドラには、再び 神様の み言葉を 勉強したいという 新たな 願いが わいてきました。そんなことを 考えていたら、いつの間にか、ドラは 自分の ベッドに いることに 気が付きました。

 時計を 見ると、お母さんが 朝食に よびに 来るまでには、まだ 少し 時間が あります。(よかった! すぐに 水を 見つけなくちゃ。) ドラは ベッドから 飛び起きました。

 戸だなの 下の 段に、聖書が 入っているのが 見つかりました。すぐそばに、以前 お母さんと いっしょに 暗記した 聖書の 節が 書いてある ノートも あります。(助かるわ。部屋を そうじしながら、これを おさらいできるもの!)

 「み言葉は、わたしに 喜びと なり、心の 楽しみと なりました。」*1* (ああ、そういう 意味だったんだ。神様の み言葉が、わたしに 喜びを もたらしてくれるのね!)

 ドラは 服を 着がえて ベッドを きちんと 整え、部屋を 片付けながら、賛美歌を 歌い始めました。そこへ お母さんが 朝食に 呼びに 来ましたが、ドラが 起きて 着がえているばかりか、元気に 歌いながら おどり回っているのを 見て、びっくりしました。

 「まあ、おはよう、ドラ。今朝は とても 元気そうね!」

 ドラは おどるのを 止めて 言いました。「おはよう、お母さん。わたしね、前に お母さんと いっしょに 暗記した 聖句を おさらいすることに したの。」

 すると お母さんは ますます 感心して 言いました。「それは すばらしいわ、ドラ。確かに、それは 1日を 始めるのには、最高の 方法のようね!」

 「本当に そうだわ!」と ドラ。

 「ねえ、お母さん。また いつか、前みたいに 聖書の 物語を いっしょに 読みましょう。」

 「そうね! ぜひ そうしましょう。・・・さあさ、早く 朝食を 食べないと、おくれちゃうわよ!」 お母さんは いたずらっぽく ドラの 鼻を ちょんと つまみました。

 ドラは 丸1日中、今朝 読んだことを どうやったら 実行に 移せるだろうかと 考えていました。ほかの 人に 対して 不親切な ことを しそうに なったり、意地悪な ことや 不平を 言いそうに なるたびに、今朝 おさらいした 聖句を 思い出しました。「わたしたちは たがいに 愛し合おうでは ないか。愛は、神から 出たものなので ある。」*2* ドラは それを 何度も 自分に 言い聞かせ、代わりに、やさしくて 親切な 言葉を 言おうと しました。

 それには かなりの 努力が 要りました。いつも 不平を 言うのに 慣れっこに なってしまっていたからです。けれども、それが むずかしくて、前のように つい 不平を 言ってしまったりしても、時間が たつうちに、少しずつ よくなってきました。

 その夜、ドラと お母さんは ベッドに すわって、いっしょに 新訳聖書の 物語を 読みました。イエス様が 奇跡を 起こす お話や、人々を 助けたりする お話を、このようにして また 聞くのは 楽しいものでした。

 物語を 読み終えると、ドラは 言いました。「お母さん、わたし、イエス様みたいに なりたいわ。みんなに 愛を あげて、お手伝いに なることを したいの。」

 「まあ、ドラ。本当に やさしいのね。とても 立派よ!」 そう 言うと、お母さんは ドラを だきしめて キスしました。

 ドラは その夜、ベッドに 入って、お母さんの 言ったことを 考えていました。目を つぶると、満たされた 気持ちに なりました。自分が 変わりつつ あると 分かったからです。まもなく すると、ドラは ぐっすりと ねむっていました。

 目を 開けると、ドラは また 庭園内の 通り道を スキップしていました。石の 間に 生えていた 大きな 雑草は、なくなっています。よく 見ると、石は 青紫色を していました。ドラの 大好きな 色です。

 「まあ、何て きれいな 石なのかしら。」 バラの しげみの 前に 立って、ドラは 思わず つぶやきました。すると、バラの 花が 言いました。

 「まだ 残っている 雑草の 下に かくされている 宝物を 見つけたら、きっと おどろくわよ。それに、ねえ、見て。ふん水に 水が もどってきたわ!」 バラは うれしそうです。

 ドラが ふん水の 方を 見ると、水が 四方八方に 向かって ふき上げています。それが あちこちに はねて、まるで 水が おどっているようです。本当に きれいでした。

 「うわあ。最初に 見た 時は、こんなに きれいな ふん水だとは、夢にも 思わなかったわ!」 ドラは この 美しい ながめに 圧倒されました。そして、あと 何を しなければ ならないかと、庭園を 見渡しました。(ベンチは ぬり直す 必要が あるわね。こわれた さくも 直さないと。雑草も、まだ ちらほらと 残っているわ。

 ドラは バラの 方に 向き直って 言いました。「ねえ、教えてくれない? 庭園の 残りを 全部 きれいに するのに 一番 いい 方法は 何? ほかの 宝物を 見たくて たまらないの!」

 「そうねえ・・・。」 バラは、葉っぱの 手を あごらしき 所に あてて 言いました。「あなたは、前よりも 親切で やさしくなったわ。それに、み言葉も 読んでいるし・・・。そうだ! 例の 『声』に 聞いたら いいわ!」 バラは 得意満面で 言いました。

 ドラは びっくりした 様子です。「わたしに 話しかけてくる、あの 『声』を 知っているの?」

 バラは、ほほえみながら うなずきました。「ええ、もちろんよ、ドラ。それについては 何でも 知ってるわ。だって、その 『声』と わたしは、親友なんだもの。」

 その時です。ドラは ハッと 目を 覚まして ベッドの 上に 身を 起こしました。またもや 目覚まし時計に 起こされて、ドラは 自分の 部屋の ベッドに もどっていました。早朝の 日光が 窓から 差しこんでいます。(あ~あ。あの 『声』が 一体 どこから 来るのかを 聞くのに、丸1日も 待たなくちゃ いけないなんて。もう ちょっとで 分かる ところだったのになあ!) ドラは 不きげんそうな 顔で すわっていました。

 「元気を 出して。がまん、がまん。」と、例の 『声』が ドラの 心の 中で ささやきました。

 「わかったわ。」 ドラは うなずいて ベッドから 出ました。そんな 気分で なくても、とにかく 元気に ふるまおうと 決めました。そして、バラが、何を したら いいかを その 『声』に たずねたら いいと 言った ことを 思い出しました。すると、あの 『声』が また 聞こえてきました。「静かに して 耳を かたむけるなら、君の 心の 中に ささやいてあげるからね。」

 ということで、ドラは そうしたのです。あの 『声』が 教えてくれる ことを 聞き出すために、1日中 耳を かたむけていました。それで 丸1日、ほかの 人に 対して やさしく 親切に してあげたり、助けを 必要としている 人を 手伝ってあげたり、つらい 思いを している 人に はげましの 声を かけてあげたりする 機会を たくさん 見つけることが できました。『声』が いつも、やさしくて はげみに 満ちた 方法を 教えてくれたからです。

 1日は あっという間に 過ぎ、ドラが ベッドの 中に 入っていると、お母さんが お休みの キスを しに 来ました。

 「すてきな 夢を 見てね。お休み、ドラ!」 お母さんが やさしく 言いました。ドラは うれしそうに クスクス 笑いました。(もちろん、今夜も すてきな 夢を 見るわ。とっても すてきなのをね!) 目を つぶると 次の しゅんかん、ドラは バラの しげみの 真ん前に 立っていました。

 バラは にっこり ほほえむと、以前 古くて さびた ブランコが あった 方を 指さして 言いました。「あっちを 見てごらんなさい。」 ドラが 振り向くと、古い ブランコは もう ありません。その 代わりに、きれいな クッションと 屋根の ついた、新しい 二人乗りブランコが ありました。

 すぐに、ドラの 目は ブランコに すわっている 男の 人に 引き寄せられました。ものすごく やさしそうな 目で、すてきな ほほえみを 浮かべています。

 その 人は こちらに 手を 差し出して、ドラの 名前を 呼びました。ドラは 胸が いっぱいに なって、ゆっくりと 歩み寄りました。ドラも 手を 差し出しましたが、言葉が 出ません。やっとの ことで、ドラは ささやきました。「あの 『声』・・・あの 声は、イエス様だったんですね?」

 その人は ドラの 手を 取って 言いました。「そうだよ、ドラ。わたしだ。さあ、わたしの となりに おすわり。君が 話したいことを、何でも 話して いいよ。最高の 友だちとして、わたしは いつも 君の そばに いて、君の 助けに なり、君を 幸せに したいんだ。」

 「ああ、イエス様!」 ドラには、それしか 言えませんでした。ドラは イエス様を だきしめました。

 「ドラ、君の 庭園を 見てごらんよ。」 イエス様は 目を 輝かせながら 言いました。

 見渡してみると、雑草は 全部 なくなって、きれいに なっています。ドラは うれしくなりました。さくも 直されているし、ベンチも ぬり直されています。それに、以前 雑草で いっぱいに なっていた 花だんも、今では あらゆる 種類と 色の 新しい 花が さき乱れています。

 「うわあ! 何て きれいなのかしら! 本当に ありがとうございます! イエス様が、こんなに すてきに してくださったんですよね?」 ドラは 声を 大にして 言いました。

 「どうして 分かったんだい?」 ドラが おどろきで わくわくしているのを 見て、イエス様は 目を 輝かせながら ほほえみました。

 「だって、あっという間に こんなに きれいに するなんて、わたしには 絶対に 無理だもの。」と ドラは 答えました。

 「そうだね。わたしが 話しかけた 時、君は その声に 従ってくれたから、わたしは うれしくなって、君のために ここを きれいに したんだ。このまま きれいに 保つためには、毎日 きちんと 水を やり、雑草を ぬき、そうじしなくては いけないよ。そして、助けが 必要な 時には いつでも、わたしを 呼んでおくれ。」

 「そうします、イエス様。約束します。」 そう 言って、ドラは イエス様の 肩に 頭を もたせかけました。生まれてこのかた、まるで 天国に いるみたいに、こんなに 幸せに 感じたことは ありませんでした。

 すると、イエス様が 言いました。「お話を してあげようか?」 ドラは じっとしたまま、ただ うなずきました。イエス様は 話し始めました。「あるところに、庭園が あったんだ・・・。」

 「あなたがたは、わたしが 語った 言葉によって すでに きよく されている。」(口語訳聖書、ヨハネによる福音書 15:3)

脚注:

*1* 口語訳聖書、エレミヤ書 15:16

*2* 口語訳聖書、ヨハネの第一の手紙 4:7

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