ビリーと 仲間達:ちょうどが なにより
問題は、ウサギの ビリーが 何でも かんでも もっと 欲しいと 思った 時に 始まりました。
「お父さん。ぼく、自転車を もう 1台 欲しいんだけど。」 ある日の 朝食の 時に、ビリーが 言いました。
お父さんは、読んでいた 新聞から 目を あげて 言いました。「おや。去年 たん生日に あげた 自転車は、どう なったんだい?」
「それは、去年の 自転車でしょ。それに、色は 青だし。今年 ぼくが 好きな 色は、赤なんだ。」 ビリーは どうしても、もう 1台の 自転車が ほしく なったのです。結局のところ、二つの ほうが 一つより いいに きまってます。お父さんだって、ずっと 前に そう 言ったはずだ、と ビリーは 思いました。
お父さんは、ビリーを 見て 考え込みました。しばらくして、お父さんは 口を 開きました。「自転車が もう1台 欲しいなら、そのための お金を かせがないとな。」
「でも、一体 どうやって?」 ビリーが 聞き返しました。そのような ことは、今までに したことが ありません。
「リスの スヴェンさんのために 木の実集めを 手伝うとか、銀行家の アナグマさんの 家の 芝刈りを するとか、おまえが 手伝える 仕事は いくらでも あるぞ。」
「わかった。そう するよ。」 ビリーが うなずきました。
ビリーは、銀行家の アナグマさんの 家の 庭の 芝刈りを する 仕事を もらいました。それに、リスの スヴェンさんのための 木の実集めの 仕事も。学校が 終わると ビリーは、友達と 遊ぶのは やめて、これらの 仕事を するために 時間を 費やしました。やがて お金が たまり、2台目の 自転車を 買うことが できました。ピカピカの 赤い 250トリプルXレーサーです。
ビリーの 2台の 自転車は、学校中の うわさに なりました。親友の ハリネズミの アレックスは、ビリーの 家に 遊びに 行っても いいかと 聞いてきました。ビリーの 自転車に 乗ってみたかったのです。「たぶん、明日ね。」と ビリーが 答えました。ビリーは、2台の 自転車を 持っていることで みんなから 注目を 浴び、得意に なっていました。それで すぐに、今度は 何を 買おうかと 考え始めたのです。
ビリーは、何かが 一つ 欲しいと いうのでは なく、何でも もっと あるほうが いいと 思うように なってしまいました。
ビリーは おばあちゃんに 頼み込んで、イヤーマフスまで もう一つ 買って もらいました。まだ 真夏だと いうのにです。学校の カフェテリアでは、シェフの クラリスさんに フライを 二人分も 頼みました。お母さんの お使いで 町の スーパーに 行った 時は、買い物リストに ある 物を すべて、2倍も 買ってきて しまいました。
その日 ビリーは、2袋の じゃがいもと、2かごの にんじんと、2袋の 砂糖と、2袋の 小麦粉を、持って 帰ってきました。全部 持ち帰るために、ハリー・マーケットの ショッピングカートまで 借りなくては ならない 始末でした。
「あらまあ!」 ビリーの お母さんは 目を 丸く しました。「一体、何を 考えてるの?」
「たくさん あるほうが いいんだよ。」 ビリーは とっさに 答えました。何でも 少ないよりは たくさん あるほうが いいと、信じ切っているのです。それに、ビリーは じゃがいもも、にんじんも、砂糖も 好きだったので、それらの ものが 絶対に 足りなく ならないように しておくのは いいことだと 思ったのです。
「余分な 食べ物は、ぼくの 部屋に 置いて いいから。」と ビリーが 言いました。
「それは もっともね。食料庫には、そんなに たくさん 置く 場所は ないもの。」 お母さんも うなずいて 言いました。
夕食を 済ませて ビリーが 自分の 部屋に もどると、部屋は 前よりも 小さく なってきているようでした。ビリー自身も 小さく なっているように 感じたほどです。食料品の 袋や、彼が ためこんだ 「余分な」 ものの すべてが 部屋の 大部分を ふさいでいて、ビリーは ベッドに たどり着くのにも、山積みされた いろいろな 物の 間を かき分けて 通りぬけなくては なりませんでした。(そろそろ 二つ目の 部屋が 必要だなあ。)と 思いながら、ビリーは 眠りに つきました。
翌朝、ビリーは ごきげんななめでした。ちっとも 眠れなかったのです! ベッドに のっている 大きな じゃがいもの 袋と、それぞれ 2つずつ そろった ぬいぐるみの せいで、ビリーは ふきげんに なっていました。
昼食の 時間に なって、ビリーは 親友の アレックスの となりに すわりに 行きました。ビリーの 気分が しずんでいる 時には いつでも、アレックスが 一生けんめい 元気づけてくれるからです。
「ああ・・・。やぁ、ビリー。」 アレックスは びっくりした 表情で、食べていた サンドイッチから 目を あげました。
ビリーは、アレックスの そばに あった ただ一つの 切り株に ドサッと 腰を 下ろして 言いました。「ぼく、めちゃめちゃな 気分なんだ!」
ちょうど その時です。キジの フィスクが やって来ました。「ビリー、悪いんだけど。アレックスが お昼を いっしょに 食べようって さそってくれてたんだ。」 フィスクは、困った 顔を しながら 言いました。
「何だって?」 アレックスの ほうを 向きながら、ビリーが 言いました。「だけど ぼくたち、いつも いっしょに お昼を 食べてるじゃないか。」
「そうでも ないよ。」 アレックスが 静かに 言いました。「もう 何週間も、いっしょに 食べに 来てないじゃ ないか。ぼくは さびしかったから、お昼を いっしょに 食べようって、フィスクを さそったんだ。
君は もう、ぼくと 遊ぶ 時間は ないみたいだし。君は、次に どんな 物を もっと 手に 入れられるかって ことしか 考えてない。だから、君に とっては ぼくが いたって何にも ならないんじゃ ないかって 思い始めたんだ。」
ビリーは、ぷんぷん おこりながら 行ってしまいました。アレックスは、一体 何が 何だか 分かりません!
ビリーは 家に 帰るところでした。ところが、ウサギ一家の 巣穴に 近づいたころ、何かが いつもと ちがうことに 気づきました。おまわりさんの コナーさんと 消防士の ファーガスさんが、ビリーの お父さんと お母さんと いっしょに、彼らの 家の 入口に 立っていました。
ビリーが 家の そばまで 行くと、お父さんが 歩み寄って 肩に 手を かけました。「ビリー。」 お父さんの 声は やさしいけれど、深刻な ひびきを もっていました。「おまえの 部屋は、床が ぬけて 下の 食料庫の 上に 落ちたんだ。ベッドルームとしては 十分 じょうぶな 床だが、おまえが 部屋の 中に ためこんだ 物の 重みを すべて 支えられるほど じょうぶには できていなかったからな。食料庫と おまえの 部屋の 床を 直すには しばらく 時間が かかるから、おまえは それまでの 間、弟の 部屋を いっしょに 使わせてもらうんだな。」
ビリーは 何か 言おうとして 口を 開きましたが、言葉が 出ません。いろいろ 考えようと しましたが、思い浮かぶのは、親友を 失ったという ことだけでした。それも、ビリーの 部屋の 床を めちゃくちゃに した、たくさんの ばかばかしい 物のためにです。
「おまえが 宝物を 集めるのを じっと 見ていたんだがね。」と お父さん。「何か 言うべきかとは 思ったが、まずは、物を 集めても 幸せには なれないと いうことを おまえ自身で 経験して 欲しかったんだ。おまえの 部屋の 床が、こういった 余分な 物のために 作られていないように、おまえの 人生と 心だって、入れられる ものには 限りが ある。本当に 必要と している わけでも ない 物で いっぱいに してしまうなら、人生で 本当に 必要な もののための 余地が なくなってしまうのだよ。」
ビリーは、アレックスの ことを 考えていました。「親友とか?」
「そうだよ。友達と いっしょに 過ごすほうが いい 時間などもだ。」
「でも、余分な 時間を 過ごすことが いいことも あるの?」 ビリーが たずねました。
「それが 他の人と 分かち合うためなら、余分は いいものだ。必要な 人達と 分かち合うならね。だが、そうで なければ、ちょうどが 最善なんだよ。」
ビリーが お父さんの ほうを 見て 言いました。「アレックスに 会いに 行って いい? もう ずいぶん 長いこと、いっしょに 遊んで ないんだ。アレックスが いないと さびしいよ。」
「ああ、いいとも。」 お父さんは ビリーに ハグを して 言いました。
ビリーは 走り出しました。部屋の 床が ぬけた 時、ほとんどの 物は ダメに なりましたが、友達の アレックスが いるなら、それで 十分だと わかったのです。
終わり