ビリーと仲間達:ビリーと 野獣
ウサギの ビリーは、もう 待ちきれません。ハチミツ水に 引き寄せられた アリたちが、今にも ビリーの アリの 飼育セットに 入ろうとして 集まってきているのです。できた アリの巣を 学校の 発表会に 出せば、ビリーは 学校で 最高に かっこいい ウサギとして 知られるように なるでしょう。
ビリーは、学校で みんなから 浴びせられる 称賛のことで 頭が いっぱいです。食卓の 上に はい上がると、キャロットケーキを もう一切れ 取って いすに もどりました。
「まぁ、マナーも 何も あったものじゃ ないわね。」 お母さんウサギは あきれてしまいました。
けれども、ビリーは 全く 上の空です。お母さんや お父さんが 最初の 一切れも 食べ終わらないうちに、三切れも 平らげてしまいました。ごちそうさまも 言わずに、アリの 飼育セットを 見に、外に 飛び出していってしまいました。そばまで 行くと、アリたちを おどろかせないように、そろ~りと 近づいて、中を のぞきこみました。辺りが だんだんと うす暗く なる 中で、何か 動いて いないかと 目を こらしました。アリは、いたのでしょうか? 1ぴきも いません。
飼育セットの 説明書に 書かれている ことは、全部 きちんと やりました。うまく いくはずなのに! ビリーは、がっくりと ため息を つきました。木曜日までに アリが 集まらなかったら、どうしよう? クラスで 発表できる ものが、何も ないことに なります! その日の 放課後、ビリーは アナグマの スモグルに、スモグルが 発表しようと していた 曲芸技よりも 自分の アリの巣の ほうが いいと 言って、じまんしたばかりです。
スモグルは 土を け散らしながら、おこって 行ってしまいました。困った ことに なりました。(そうだ! キャロットケーキなら、アリが 集まるかも!)
家の 中に 飛びこみ、お母さんや お父さんまで おしのけて、最後の 一切れの キャロットケーキを さっと 取りました。間に合いました。いっしゅん おそかったら、お母さんと お父さんが 半分ずつ 食べていた ところでした! ビリーは、急いで また 外に 飛び出して行きました。
その夜、ビリーが ベッドで うとうとしていると、お父さんと お母さんの 話し声が 聞こえてきました。その日、だれかさんの マナーが めちゃくちゃだったと 小声で 話しています。ビリーは、それが だれなのかを 考える 間も なく、あっという間に まどろんでしまいました。アリのことを 夢見ながら・・・。けれども 2,3時間 たつと、目が 覚めました。
ベッドから 出ると、ビリーは お父さんと お母さんの 部屋へ 行きました。
「お母さん。今、ハチミツを 切らせてるでしょ。だから、アリを おびき寄せるために キャロットケーキを 使わなくちゃ いけなかったんだ。また 明日、作ってくれる? お母さんってば! 聞いてるの?」
お父さんが うなり声を あげました。しかたなく、ビリーは 自分の ベッドに もどりました。朝に なったら、また さいそくしようと、ビリーは 思いました。
あくる朝の ことです。ビリーは、今日は 何が あるかなぁと わくわくしながら 目覚めました。が、すぐに ふきげんに なりました。森の 中で キャロットケーキが 好きな 生き物は、アリだけでは なかったようです! アリの 飼育キットの 中の キャロットケーキが 全部 なくなっているばかりか、アリが 一ぴきも いなかったからです。
ビリーは ぷんぷんしながら、引き出しや ドアを バタンと 閉めたり、家中を 足を ふみ鳴らしながら 歩きました。朝食の 時には、ニンジンがゆを 見て、しかめっ面に なりました。お父さんや お母さんが 心配そうに ビリーの 方を 見ている ことさえ、気が 付きません。ビリーには、新しい 計画が 必要でした。それも、すぐにです。
その日の お話の 時間、リーマス先生は、みんなに きらわれていた こわい 野獣の 物語を 読んでくれました。その物語には ハッピーエンドが あるのですが、ビリーは その お話を 前に 聞いたことが あるので 他の ことを 考え始めてしまいました。指や つま先を パタパタさせ、外に 行って アリを つかまえられたらなぁとか、ウサギの イザベルの 気を 引けたらなぁ、などと 思っていました。ですが、ウサギの イザベルは、アナグマの スモグルの 方を 向いています。ビリーは 面白く ありません。イザベルは、スモグルでは なく、自分の 友達なのに。クラスで だれかの 方を 見ていると したら、自分の 方を 見ているべきなのに! ビリーは 指の 間に 鉛筆を はさんで クルクル 回しながら、せきばらいを しました。鉛筆を 回すのは、大得意なのです。もう一度、大きく せきばらいをすると、もっと 速く 鉛筆を 回しました。すると、イザベラが こちらを 向きました。が、リーマス先生にも 注目されてしまいました。ビリーは 思わず 赤面して、鉛筆を 置きました。
「ビリー、野獣が そんなに きらわれていたのは どうしてか、分かるかい?」と、リーマス先生が たずねました。
幸いな ことに、ビリーは その 物語を とても よく 覚えていました。「野獣は、他の 人の ことなんか 全く おかまいなしで、自分の ことしか 考えていなかったからです。」
「では、なぜ それで、野獣が 追放されたのかね?」
ビリーは、物語の 中での 野獣の ふるまいについて、考えました。「全然 お風呂に 入らなくて、くさかったからじゃ ないですか?」
「そうだね。だが 一番の 点は、自分の ことしか 考えなかったからという ことだね。」と、リーマス先生が 言いました。
お昼休みに なり、ビリーは いっしゅん、どうして だれも 自分と いっしょに お昼ご飯を 食べに 来てくれないのかなぁ、と 思いましたが、すぐに、アリを つかまえる 次の 手立てを 考えるので 頭が いっぱいに なってしまいました。
下校の とちゅう、ビリーは 親友の ヤマアラシ、アレックスを 呼び止めて、アリを つかまえるのを 手伝ってくれないかと たずねました。「ぼ、ぼく・・・宿題が あるんだ。」 そう 言うと、アレックスは 急いで 行ってしまいました。
最近、ビリーは ふだんよりも ずっと、一人で いることが 多く なってきた 気が します。
夕食の 後、お母さんは 小さな おい達のために 編んでいた マフラーについて 話していました。お父さんは じっと 耳を かたむけています。
「いつ、会いに 行けるの?」 ビリーは、いとこたちが 大好きです。まだ 小さくて、とても 手が かかりますが、ものすごく かわいいのです。
「まぁ、ビリー。あなたが アリ以外の 話を するのは、1週間ぶりねぇ!」
ビリーは びっくりしました。確かに アリ以外の 話だって、したはずです。昨日だって、お父さんと 場所について 話しました。どこに アリの 飼育キットを 置いたほうが いいかって・・・。何日か 前は、アレックスと 捕食動物の 話を しました。アリを つかまえて 食べる 動物について・・・。
「やっと、現実に もどって来たようだね、ビリー。」 クスッと 笑いながら、お父さんが 言いました。
「もどって来たって? ぼく、どこにも 行ってないよ。」
「だけど、おまえは 食事も そこそこで、話す 時間も ないくらいだったぞ。」
「ぼくって、今週は ずっと、そんなに ひどかったの?」 ビリーが 心配そうに 言いました。
「そういう 訳じゃ ないわ、ビリー。ただね、あなたは 頭の 中が 自分の ことで いっぱいに なると、家庭を 居心地良く してくれる 他の ことを 忘れてしまうのね。もし ビリーが もう一人 いて、あなたと 全く 同じように ふるまっていたと したら、どうかしら? テーブルの 上の 食べ物を 取ってもらう代わりに、自分で テーブルに はい上がったり、いつもいつも、自分の ことしか 話さないと したら?」
ビリーは、最近の 自分の ふるまいについて 思い返しました。そして、うちに もう一人の ビリーなんて、いやだと 思いました。少なくとも、最近のような ふるまいを する ビリーなんて、まっぴらです。アリが 寄り付かないのは、それが 原因だったのでしょうか。アレックスもです。だれも そばに いたがらない、あの 野獣のようには なりたく ない。今からは、他の 動物達の ことを もっと 考えるように 努力しよう。ビリーは、そう 決心しました。正直言って、ここ 数日の 間は 一人ぼっちだったし、いくぶん 悲しくも 感じて いたのです。相手が 自分だけなんて、ちっとも 楽しく ありません。
その日、夕暮れの 赤い 日差しの 中で ホタルの 光が ゆらゆらと 飛び交う 中、ビリーは こわごわと ガラス製の アリの 飼育キットに 近づきました。明日は いよいよ 発表会です。中で うごめいてくれる 何かが 絶対に 必要なのです。何か いる! ・・・カブトムシだ! その そばに、アリも 1ぴき いました。
やっと 何かが つかまったので、ビリーは ほっと ため息を つきました。このことを アレックスにも 伝えられたら いいのに。事実、発表会の 課題を 最初から アレックスと いっしょに やっていれば、ずっと 楽しかったでしょう。でも ビリーは、アレックスが 発表会のために 準備していた 課題に、関心を 持とうと しませんでした。今に なって、ビリーは 悪かったなぁと 思いました。
「アレックス! アレックス!」 登校の とちゅう、ビリーが 声を かけると、友達の アレックスが 立ち止まりました。何やら、布を かけた ボードを 両手に 持って 運んでいます。ビリーが 近付くと、いつもなら 明るい 顔の アレックスが、心配そうな 表情を しています。
「どうしたんだい、アレックス?」 ビリーが たずねました。
アレックスは 布を かけた ボードを 下に 置くと、鼻を すすりました。「ぼ、ぼくの 課題・・・大した ものじゃ ないんだ。どっちみち、君のほどは 良くないよ。」 そう 言うと、アレックスは かけていた 布を 取って、小枝や 木の実や 木の葉で 作った 小さな 村を 見せました。
「うわぁ、アレックス。すごいじゃ ないか。きっと、作るのに 何時間も かかっただろうね。ぼくも、そういうのを 思いついていたら よかったなぁ。」
「本当かい?」 アレックスの 顔が 少し 明るく なりました。「手伝いたいかって たずねた 時は、アリの 飼育キットで いそがしいって 言ってたじゃ ないか。だから、じゃましたくは なかったんだけど。」
「ぼくね、今週は ちょっと、野獣みたいだったんだ。」 ビリーは 顔を 赤く しながら、ちょっと 笑って見せました。「ぼく、君の 課題を 手伝ってたほうが、楽しかっただろうなって 思うんだ。何でも いっしょに やるほうが、いつも もっと 楽しかったもの。」
「ぼくも、そう 思うよ。ぼ、ぼくの 課題、発表会に 出す 価値 あるかなぁ?」 アレックスが たずねました。
「もちろんさ! みんな、こんな ちっちゃい 家が 並んでいるのを 見たら、びっくりするよ。うわぁ、マガモ池まで あるんだね!」 ビリーは アレックスの ことを 思うと、うれしく なりました。「さあ、行こう。君の 課題を 発表する 準備を しないとね。」
アレックスは 下に 置いた ボードを 持ち上げて、言いました。「君の アリの巣は?」
「まあまあだね。だけど、次回は ちがう やり方に するよ。」
二人は 学校へ 向かいました。自分の ことだけでは なく、他の 動物達の ことも 考えるほうが、どんなに 気持ちが いいんだろう。ビリーは、そう 思いながら 歩いていきました。