マイ・ワンダー・スタジオ
大事な レース
水曜日, 7月 31, 2019

大事な レース

 目覚ましが 鳴ると、ボビー・ハンソンは 寝返りを し、まくらを 頭に 乗せて、また 寝ようと しました。まだ 起きる 気分では ありません。その時です。ボビーは、今日が 特別な 日である ことを 思い出しました。待ちに 待った、その日が やって来たのです。

 ボビーは さっと 起き上がると、用意しておいた 体操着に 着替えました。洗面所に 行って 顔を 洗い、歯を みがき、かみの毛を とかし、ワクワクしながら 今日の 陸上競技会の ことを 考えていました。

 「ボビー、朝食よ。」と、お母さんが 呼びました。「そろそろ 出かける 時間よ。早くね。」

 ボビーは キッチンへ 向かいました。

 「よく 眠れた?」と、お母さん。

 「うん!」 そう 言うと、ボビーは お母さんの 作ってくれた ベーコンエッグと フライドポテトを さっと 平らげました。

 「ボビー、準備が できたら、出かける 前に お父さんが ちょっと 話したいそうよ。外で 車を 点検してるわ。」

 「分かった! お母さん、朝食 ありがとう。おいしかったよ。」

 ボビーは 支度を すませると、外に 出ました。お父さんは トランクを 掃除していました。「おはよう、お父さん!」

 「おはよう、ボビー! 今日は 大切な 日だね!」 お父さんは していた ことを やめて、ボビーの 肩に 腕を 回しました。「今まで よく がんばった。今日に 備えて、できる ことは 全部 やってきたものな。きっと 緊張してるだろうね。」

 「うん・・・少しね。全力 出せると いいんだけど。」

 「ボビー、お前を 誇りに 思うよ。今日に 備えて、一生けん命 やってきたのは 分かってる。だから、今日の 競技の 結果が どうなろうと、父さんに とっては、お前が もう 勝ったんだって ことを 言いたかったんだ。優勝しなければ 母さんと 父さんが がっかりするなんて、思っちゃ いけないよ。もちろん、優勝は して欲しいが、何より 大切な ことは、お前が 一生けん命 トレーニングしてきたって ことだ。

 今日は、きびしい 戦いに なると 思う。たやすくは ないが、母さんも 私も、お前を 応えんしているからな。お前を 愛しているよ。一生けん命 トレーニングに はげんで きて、えらいぞ。結果が どうであれ、お前を 誇りに 思ってるからな!」

 ボビーは はげましの 言葉を 聞いて、ほっと しました。競技会で 優勝できるか 分からないし、両親を がっかりさせは しないかと、気に なっていたからです。

 (ぼくには 何て すてきな 両親が いるんだろう!)と 思いながら、ボビーは さっと 車に 乗りました。

 ボビーの 弟と 妹も、車に 乗り込みました。最後に お母さんが 乗ると、車は 出発しました。

陸上競技会には、町中の 小学6年生が 参加します。ボビーは、リバーサイド小学校から 選ばれた チームの 1人で、200メートル短距離走に 出ます。

 ボビーは 競技場へ 向かう とちゅう、ずっと 考え事を していました。お父さんの はげましの 言葉を 心に 刻んでは いても、家族や 友達や 先生方も ふくめて、観客席から 大勢の 人達が 歓声を 上げながら 見ていると 思うと、やはり 緊張してしまいます。

 陸上競技会が 開かれるのは、学校の そばの リバーサイド運動公園です。ボビーは そこで 幾度となく 練習を 重ねて きたので、よく 知っている 場所です。お父さんも、よく いっしょに 来て、ストップウォッチで 時間を 測ってくれました。

 「お兄ちゃん、勝てると 思う?」と、弟の ダリルが 聞きました。「応えんしてるからね。きっと、お兄ちゃんが 1番 速いと 思うよ!」

 「さあ、どうなるかな、ダリル。だけど、全力で がんばるからね!」

 会場に 着くと、ボビーは 観客席に 向かう 家族に 別れを 告げて、自分の チームに 加わりました。

 マベリック・コーチは、大会が 始まる 前に、少年達に はげましの 言葉を かけました。「君達は 今日まで、一生けん命 がんばって 練習してきた。参加する 競技は 別々でも、みんな、1つの いい チームだ。」

 「君達は リバーサイドの 代表として 選ばれ、大勢の 人達が 見ている。かなり 緊張している ことだろう。だが 今は、観客の ことや、勝ち負けの ことは 忘れて 欲しい。ただ、楽しんで 来なさい。そして、ベストを つくすんだ!」

 ボビーは、靴ひもを 結びながら 短い 祈りを しました。(イエス様、どうか、ぼくが 勝ち負けを 気に せず、ただ ベストを つくせるように 助けて下さい。緊張しませんように。そして、お父さんや お母さんや 学校の みんなや コーチや チームメイト達を 失望させたり しませんように。)

 ボビーが スタート地点に 向かうと、観客席は いっぱいで、会場は 興奮に 包まれていました! 様々な 競技が 始まるたびに、人々は 大歓声を 上げています。思わず 圧倒されてしまいました。

 アナウンサーの 声が スピーカーから 流れました。「次の 競技は、200メートル短距離走です。」

 いよいよ ボビーの 出番です。ボビーは 位置に 着くと、スタートの 合図を 待ちました。

 ボビーは、この レースに 参加している 他の 7人を 見ました。そして、他の 少年達も きっと、自分と 同じく 緊張し、不安な 気持ちで、家族や 友達や 学校の 人達の 期待に 応えて 勝ちたいと 願っているんだろうなぁと 思いました。ボビーは、そんな 思いを ふりはらいました。(他の 人達の ことなど 気に せず、今は とにかく 勝つことに 集中しなければ。) ボビーは 首を すくめると、目前の レースに 思いを 集中しました。

 アナウンサーの 声が 会場に ひびき渡りました。「いよいよ、200メートル短距離走が 始まります。」

 スタートの 合図で、少年達は いっせいに ダッシュしました。ボビーは 練習に はげんで きたので、今こそ 培ってきた 力が 発揮されています。体調も 絶好調。他の 少年達よりも ずっと 先方を 走っていましたが、ただ1人、スチュアート・ダベンポートだけは、すぐそばを 並んで 走っています。彼は 手ごわい 相手です。スチュアートは 別の 学校に 通っている 友達で、いっしょに 練習した ことも あります。先方を 走る ボビーと スチュアートに 続いて、他の 少年達も 少し 後を しっかり 付いてきています。

 観客席からは 歓声が わき上がっています。とにかく 勝たなくては、という 気持ちが はやります。すると 突然、スチュアートが つまずいて 転んでしまいました。痛みで 悲鳴を 上げています。ボビーは 先頭に おどり出ましたが、今まで 好調に 走っていた スチュアートが 足の 痛みで 立てなく なってしまったなんて、と ショックに 感じ、気の毒でも ありました。

 その時です。正気とは 思えない 考えが ボビーの 頭を よぎりました。(もどって、スチュアートを 助けるんだ。)

 (何だって? あり得ない!)と、ボビーは 思いました。(何か月も 練習したんだ! この レースを むざむざ あきらめるなんて、無理だよ。みんなが 見てるんだ。家族が、友達が・・・学校の みんなが、ぼくに 期待を かけているんだ。考えられない!)

 ところが、走り続けていると、心の 中の 小さな 声が どんどん 大きくなってくるのです。スチュアートを 助けよという 声が、もう 耳の 中で 響かんばかりに なりました。ボビーは 向きを 変え、足首を さすっている スチュアートに 走り寄りました。結局、ジェームス・アメットが 優勝しました。ジェームスは 大喜びで、観客も 歓声を 上げていました。

 「何で あんなこと したんだい? 君が 勝てたのに!」と、スチュアート。

 「どうしてだろう・・・ただ、そう しなきゃって 感じたんだ。それが すべき ことだってね。」と、ボビーが 答えました。

 「ありがとう、ボビー。お前って、いい やつだな。ぼくのために あんな こと するなんて、一生 忘れないよ。転んだ 時は もう、はずかしくってさ。それに、すごく 痛かったんだ! 友達が そばに いてくれて、助かったよ。お前は 最高の 友達だ!」

 レースの 真っ最中に ボビーが とった 思いやりある 行動は、小学6年生の 時から 一生 続く 友情を、ボビー・ハンソンと スチュアート・ダベンポートの 間に 生み出しました。ボビーは、ただ1回の レースに 勝つことだけよりも、はるかに 貴重な ものを 得ました。一生の 友を 得たのです。その レースに 参加した ほとんどの 人達が、ボビーが、人として 不可欠な 資質である、おしみない 心と 無私無欲さを 持っていることを 認めたのでした。

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タグ: 子供のための物語, 神の愛の法則, おしみなく与えること