マイ・ワンダー・スタジオ
神様の 役を 演じる
水曜日, 9月 16, 2020

神様の 役を 演じる

 「あぁ、そこに いたのね、ヘレン。」 玄関から 入ってきた ヘレンに お母さんが 声を かけました。「どこへ 行っていたのかと 思ったわ。」

 8歳の ヘレンは、駅の プラットフォームに 立って、列車の 客室から 出てくる 兵隊達が、友人や 家族に 歓迎の 出むかえを 受けているのを 見ていたのでした。第二次世界大戦*が ついに 終わり、大勢の 兵隊達が、自宅や 母国へ 帰ってきたのです。ヘレンは、自分の お父さんも あの 列車から 出てきたら どんなに いいだろう、などと 想像していました。けれども、お父さんが 帰ってこない ことは 分かっていました。ヘレンの お父さんは、戦死したのですから。

 「私、兵隊さん達が 帰ってくるのを 見ていたの。家族の 人達は みんな、また 会えて とても 幸せそうだったわ。歌を 口ずさんでいる 人も いたしね。私と 同じくらいの 年の 女の子も、お父さんを むかえに 来ていたのよ。

 戦争が 終わって、本当に 良かったわ!」と ヘレンが 言いました。

 「お母さんもよ。」 お母さんが ヘレンを だきしめながら 言いました。

 「お茶を 入れるわね。お湯を わかすから、やかんに 水を 入れてきて くれないかしら? もうすぐ 夕食が できるわ。」と お母さんが 言いました。

 ヘレンは 灰色の やかんに 水を 入れました。

 「私、駅に いた時、考えていたんだけど・・・。」 ヘレンが ためらいがちに 言いました。

 「何を?」

 「お父さんも、戦争から もどって 来ていたら 良かったのになぁって。お父さんが いなくて、すごく さびしいんだもの! だけど、お父さんの ことで 悲しくは ないの。だって、お父さんは 天国に いるんですもの。だけど、戦争で 家族を 亡くしたのは、私達だけじゃ ないわ。お向かいの エルダさんもよ。私が そばを 通る 時は、いつも 泣いているみたいなの。」

 「そうね、ヘレン。お父さんが いないなんて、すごく さびしいし、つらいわ。だけど、イエス様は 私達の 世話を して下さっているものね。住むための 家も 与えて下さったし、食べ物も 毎食 あるし、太陽も 輝いているわ。それに、私の ヘレンが 今でも ほほえんでくれるもの。」

 そう言って お母さんが ヘレンを くすぐると、ヘレンが 笑いました。

 「お母さん、他の 人達も、私達みたいに 神様から なぐさめて もらえたら いいのにね。どうしたら、他の 人達が もっと 元気に なる お手伝いが できるかしら?」

 「神様の 愛が 行いで 表されるのを 見る 必要が あるわね。」と お母さんが 答えました。

 「う~ん。」

 お母さんは 料理している 手を 止め、ひざを ついて ヘレンの 手を 取りました。「もし 母さんが ヘレンに、今までに 私達と 会ったことの ない 人達の 所へ 行って、私が どんな 姿かを 教えて欲しいと 言ったら、ヘレンは どんなふうに 教えてあげる?」

 ヘレンは ちょっと 考えました。「私だったら、お母さんの 絵を かいて 見せてあげるかな。そうしたら、わかるでしょ?」

 「それは いいわね! じゃあ、もし 今 神様が あなたに、神様が どんな 方かを 人々に 教えてあげて欲しいと おっしゃったら、どうしたらい いいと 思う?」

 ヘレンは 考えこんで しまいました。「う~ん、神様が 聖書の 中で 言っておられる ことを 教えてあげることは できるけど、神様の 絵を かくことは できないわ。だって、神様を 見たことが ないんですもの。」

 「そうね、確かに 神様が どう 見えるかは わからないわね。だけど、神様が どのような 行いを されるかは 知っているでしょう? 神様は 何かしら? 神様は・・・」

 「愛。」と ヘレンが 答えました。

 「それなら、神様が どんな 方で、だれなのかを 人々に わかって もらうには、私達に 何が できるかしら?」

 「親切に すること?」

 「その通りだわ、ヘレン。あなたが、神様が して下さるように 親切に するのを 見るなら、みんな、神様の ことを もっと 知りたいと 思うように なるわ。」

 「じゃあ 私、そうするわ、お母さん。毎日、神様が して下さるように、何か 親切を するように がんばるわね。明日は エルダさんに お花を 持って行って、エルダさんが 元気に してるか 見てくるわ。」

 お母さんは ヘレンを だきしめました。

* * *

 翌日 学校が 終わると、ヘレンは エルダ夫人の 家へ 走って 行きました。

 トントン!

 「こんにちは、エルダさん! これ、プレゼントです。」

 かよわい 手で 黄色い 花を 受け取る 年配の 女性の 顔は、ヘレンの 陽気な あいさつで 明るくなりました。

 「おやまぁ、ありがとう。」 エルダ夫人は おどろきながらも 言いました。

 「良い 1日を。じゃ、また 明日!」 そう 言うと、ヘレンは スキップしながら 出て行きました。

 家に 帰ると、ヘレンは 日誌を 出して、ページの 一番 上に こう 書きました。「神様の 役を 演じる」。そして、その下に 「エルダさんに 花を あげた。」と 書きました。

 その週、ヘレンは 毎日 だれかのために 「神様の 役を 演じる」ことを がんばりました。やがて、日誌の ページには 新しい 6行が 加わりました。

-雨に ぬれないように、オーブレーさんが 洗濯物を 取りこむのを 手伝った。

-公園で 車いすの 男の子と おにごっこを した。

-エルダさんに ハグを した。

-妹が わたしを たたいたけれど、ゆるして あげた。

-おじいちゃんの 目は 具合が 悪くて 痛いので、代わりに 字を 読んで あげた。

-お母さんの ベッドを 整えてあげた。

 リストを 読むと、ヘレンは ほほえみました。自分の できる 方法で、神様が どんな 方かを 人々に 示して あげられた ことで、うれしく なりました。

 毎日 親切を している うちに 数週間が 過ぎ、ヘレンの ノートに 書かれる 文は だんだんと 長く なってきました。また、書きこまれる 回数も 増えてきました。これは、ある 1日に 書きこまれた 事がらです。「とうとう ヘンリー(車いすの 男の子)に、イエス様が 死んで 下さったのは、私達が 神様の 愛を 知って、天国で イエス様と いっしょに なれる ためだという ことを 教えて あげられた。ヘンリーも、イエス様の ことを 知りたいと 言った! それで 今日、ヘンリーと いっしょに 祈った。」

 8歳で、ヘレンの 親切な 行いは、彼女の 周りの 人達に 変化を もたらし始めました。

 ある日、ヘレンは 若い 男の 人が 池に 石を 投げて いるのを 見かけました。何だか、気が 滅入っている 様子です。

 「こんにちは。」と ヘレンが 声を かけました。「いい お天気ですね。」

 「今日は 全く ひどい 日だよ。話す 気には なれないんだがね。」と 若い 男の 人は 言いました。

 ヘレンは ほほえんで 言いました。「それなら、これを どうぞ。」

 ヘレンは、持っていた かごから 出来立ての ジャム入りタルトを 三つ 出して、男の 人に 渡しました。「お母さんが 作ったの。気に 入って もらえるかも。」

 そして、ヘレンは スキップして 行って しまいました。

 数日後、お母さんと いっしょに 外を 歩いていると、例の 若い 男の 人に ばったり 会いました。今回 男の 人は、ヘレンと お母さんに ジャム入りタルトの お礼を 言って、自分は フィリップという 名前だと 自己紹介を しました。

 ヘレンの お母さんは、もっと ジャム入りタルトが あるからと、フィリップを 家に 招きました。今回 彼は、何が そんなに ゆううつだったのかを 打ち明けて くれました。

 「小さい ころから、ぼくは 将来 何に なりたいか、いろいろと 夢が ありましてね。その 一つは、パイロットに なることでした。それで、大人に なると すぐに 空軍に 入り、飛行機の 操縦を 教わりました。

 それから 戦争が 始まったのです。ぼくと 親友は、戦争で 共に パイロットを 務めて いました。親友の 飛行機は 任務の とちゅうで 墜落し、彼には 2度と 会えなく なりました。」

 そう 言うと、男の 人は 泣き始めました。「ヘレン、この前 君が ジャム入りタルトを くれた 日は、彼の たん生日だったんだ。」

 ヘレンの お母さんは、フィリップの うでを やさしく ポンポンと たたいて 言いました。「私達、それが どんな 気持ちか、わかると 思うわ。」

 「私の お父さんも、戦死したの。」と ヘレンが 説明しました。

 フィリップは、ヘレンと ヘレンの お母さんと 友達に なり、それからと いうもの、たびたび 家に 来るように なりました。ヘレンは フィリップに、自分に 起こった ことを 通して どうやって 神様の 愛を 見出せたかという 話を よく して あげました。また、ヘレンの お気に入りの 子供の 聖書物語を 読んであげることも ありました。そして ある日、フィリップも、イエス様が 彼と 共に いて 助けて 下さるようにという 祈りを したのです。

 それからは、フィリップも、軍隊の 友達に イエス様や ヘレンの ことを 話すように なりました。ヘレンの お母さんは フィリップに、たまには 友達も 連れて来て、家で いっしょに 食事を しましょうと 誘ったり しました。そして、楽しい アクティビティーを したり、イエス様について もっと 学んだりしました。

* * *

 時が たつうちに、ヘレンが 住む 町には、良い 変化が 表れてきました。人々は ヘレンを 「親切を 広める 少女」として 知るように なりました。そして 近所の 町々の 人達も、やがて 彼女の 影響について 耳に するように なり、ヘレンと 同じ ことを しようと 決心した 少年少女も いました。

 ヘレンは もはや、毎日 たった 一つや 二つの 親切を するだけでは 終わらなく なりました。事実、自分でも 数え切れないほどでした。それでも 1日の 終わりには、覚えている 一つ一つの 親切な 行いを 書き留めて いきました。まもなく、彼女が 記録した ノートは 何冊にも なりました。

 長い 年月が たち、ヘレンの かみの毛も しらがに なったころ、彼女は 自分が 他の人達の 人生に 与えた 影響を ちらっと 目に しました。

 ドアを たたく 音が したので、ヘレンは つえを 使って ゆっくりと 玄関に 出て 行きました。ドアを 開けると、3人の 小さな ほほえんだ 顔が 彼女を 見上げています。一人の 子が、持っていた 花を ヘレンに 差し出しました。

 「おはよう ございます!」 子供達が いっせいに あいさつしました。「私達、この お花を あげたかったんです。今日が 幸せな 1日に なりますように。」

 ヘレンは、これと 同じような 親切を 初めて した時の ことを 思い出しました。

 「まぁ、何て やさしいのかしら。だれが こんな ことを 考えたの?」と ヘレンが 聞きました。

 「私達の 先生。」と、少女の 一人が 答えました。「先生が 小さかったころ、先生の お母さんが、毎日 だれかのために 親切をする 女の子の 話を してくれたんですって。その 女の子の おかげで、まもなく 町中の 人達が 前よりも 幸せに なったんですって。」

 「先生がね、私達も みんな、同じような ことを したら いいって。」 もう一人の 少女が 言いました。

 「だから 私達も、それを 始めたばかりなの。おばあちゃんが 最初の 人。」 3人目の 少女が 言いました。

 ヘレンは 一人一人の 子に ハグを しました。自分の 影響が 一体 どこまで 広がっていったのかは 想像も つきませんでしたが、それは 今でも 続いて いたのです。ヘレンの 親切な 行いは、人々に 喜びを もたらし続けたのでした。

「神様の 役を 演じる」 日を 決めて、その日に した 親切を 一つ一つ、書き留めてみましょう。

* 第二次世界大戦

 第二次世界大戦は、歴史上 最も 破壊的で、最も 多くの 死者を 出した 戦争の 一つで あると 言われています。きっかけは ヨーロッパでの 紛争でしたが、やがて それは アメリカと 日本をも 巻き込み、全世界の 国々に 広まってしまったのでした。その戦争は 4年間も 続き、1945年に 終わりました。

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タグ: 奉仕, 子供のための物語, 愛, 福音を宣べ伝える, 親切と礼儀